資金繰り改善の方法:テクニック編のPart2は支払順序についてです。
根本的な資金繰りの改善にはなりませんが、一時的な支払に困った際に役立つはずです。
支払を絶対に止めてはいけない内容と、一時的には待ってもらえる内容がありますので、参考にしてみてください。
→【VOL129】資金繰り改善の方法:投資の考え方=財務戦略
→【VOL130】資金繰り改善の方法:テクニック編Part1〜科目別
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今回は『資金繰り改善の方法:テクニック編Part2〜支払順序』です。(編集前のメルマガは2016年11月2日(水)に配信されています)
この記事の目次
支払いには優先順位がある
前提はもちろん支払遅延をせずに全額を毎月キチンと支払うことです。
しかし、資金繰りが厳しくなりどうしても支払いができない場合はどうしたらいいか?という問題があります。
総額300万円の支払のときに手元に150万円しかなかったら・・・全ての支払いを50%ずつすべきなのでしょうか?
すべての支払を平等にしたいという気持ちはもちろんわかりますが、実務的には絶対に支払わなければいけない支払いと少しくらいなら待ってもらえる支払いがあります。
但し、これは最後の手段であることは忘れず、毎月キチンとした支払いができるように事業を経営していくことが前提となります。
支払手形
まず、真っ先に支払わなければいけないのが支払手形の決済です。
手形の決済ができないと、信用問題につながります。
また、半年の間に支払手形を2度決済できないと、事実上の倒産と呼ばれる銀行取引が停止となります。
支払手形の未決済は何が何でも防がなければいけません。
他の支払にあてるはずだったお金をかき集める、親戚や知人からお金を借りる、支払先に頼んで手形のジャンプに対応してもらうなど、出来る限りの方法で手形の未決済をなくしましょう。
いざというときに困らないように支払手形自体を無くしておくことが肝心です。
→【VOL98】財務体質を強くしたければ支払手形をなくすことから始めましょう!
→【VOL99】財務体質を強くするための「支払手形を減らす具体的な3つの方法」
支払手形が発行できるというのは、金融機関から手形帳を発行してもらえたという証明でもあります。
金融機関の保証で、紙切れ一枚で支払を何ヶ月も待ってもらえるということは、それなりのリスクがあるということです。
支払手形は真っ先に払う、可能であれば業績が悪くなる前に支払手形をなくす、それを意識して経営していくことをお勧めします。
給与
次に支払わなければいけないのは、スタッフへの給与です。
スタッフといっても社長自身はもちろん、経営陣のお給料は別になります。
経営陣には資金繰りが困難になった経営責任があるので、経営陣に支払うお金があるのであれば、他の支払いを優先するべきでしょう。
ただ、スタッフは別です。
スタッフのお給料が遅れれば、内部には不安が広がり士気が下がったり、退職者が出たりします。
経営の根幹はヒトです。
そのヒトがいなくなったり、士気が下がったり、会社に対する不信感が広がったりしてしまうと、仮に資金繰りが正常に戻っても事業はうまくいかなくなってしまいます。
給与の支払遅延は極力避けるべきです。
外に対するより支払を待ってくれとお願いしやすいこともあり、他の支払いよりも軽んじられる傾向にありますが、支払手形の次に支払うべきものです。
材料代・外注費
次に支払うべきは材料代と外注費です。
スタッフと同様ですが、不信感が広がってしまえば取引停止や先払いでないと仕入れられないなどという状況が発生する可能性があるからです。
資金繰りが通常に戻っても材料が手に入らない、仕事をしてもらえないなどの状況になってしまったら、事業は運営できなくなってしまいます。
また、規模の小さい下請け業者であれば、自社が支払いを遅延することで自社以上に資金繰りに困ってしまい、自社より先に倒産してしまう可能性もあります。
一時的に50%程度待ってもらうことは力関係の中でできるかもしれませんが、1ヶ月以内に資金を調達し支払いをすべきです。
諸経費
地代家賃、水道光熱費、広告宣伝費、報酬その他の諸経費は、一時的に支払いを遅延しても待ってもらえる、または、サービスが停止されても一時的には困らないものです。
例えば家賃や水道光熱費は多少の支払い遅延は待ってもらえます。
1ヶ月払えなかったから事務所から追い出されたり、水道や電気が止まってしまうこともありません。
また、広告が止まったり、税理士や社労士のサービスが停止したりしたとしても、短期間であれば特に問題ありません。
そういう意味で諸経費の支払は、支払手形やスタッフの給与より、支払いの優先順位が低くなります。
くれぐれも支払順序を間違えないようにしましょう。
金融機関への金利の支払
金融機関への支払は、元本の支払と金利の支払に分かれます。
そもそも元本と金利を別々に支払うことができるのか?という疑問があると思いますが、通常は別々に支払うことは無理です。
別々に支払うためにはリスケジュールという当初の約束とは返済約束を変えてもらうための交渉が必要となります。
通常リスケと呼ばれます。
リスケジュールの交渉は簡単ではありませんが、顧問税理士をはじめ専門家に相談しながら進めれば不可能ではありません。
金融機関では、企業を以下のように評価しているので、可能であれば利息の支払はしておくことをお勧めします。
①元本・利息とも約定の通り返済
②利息のみ約定通り支払
③利息の一部のみ支払
④元本利息ともに支払えない
②、③、④はすべてリスケジュールが必要となります。
リスケジュールをしなければ元本利息を別々に支払うことができませんので、通帳残高をゼロにして支払わないということしかできませんが、それをしたらいきなり④の扱いとなります。
事前交渉なしで支払いが止まってしまえば、金融機関では事故扱いとなってしまいますので注意が必要です。
→【VOL14】リスケジュールせずに借入金の返済を減らす方法(メルマガ版財務講座)
リスケをする前にまず上記の方法を検討してみてください。
税金関係
支払いが遅れても督促状などが届きますが、営業活動には特に支障はでません。
但し、金額が大きく、期間も長くなれば、差押など強制手段を取られることもあります。
また、滞納分の支払計画は、1年以内に新たな滞納を発生させずに完了させる計画が必要となり、その支払額は通常の営業活動の大きな負担となります。
更には延滞税を中心とした遅延利息は、最大で年率14.6%となり、支払いが遅れれば遅れるほど金額は大きくなっていきます。
利息に利息はかからないので、元本の支払をまずしていきましょう。
元本は支払わない限りどうにもなりませんが、元本すべての支払いが終わった後に利息の免除または一部減額などをしてもらえた事例はあります。
税金の滞納がある場合には、金融機関からの借入はできないと思ったほうが良いでしょう。
社会保険料の支払
こちらも同様で支払わなかったことによる営業活動への影響はほとんどありません。
他の部分はほぼ税金関係と同じですが、現状は税務署ほど強制力を働かせてこないので、社会保険料の支払と税金の支払、どちらを優先すべきかといえば、税金の支払としました。
但し、権限が弱いわけではなく、現状の取り組みの強弱でしかないので、今後はどうなるかはその時の状況次第といえます。
金融機関への元金の支払い
金融機関へは真っ先に返済しなければいけないと考える経営者が多いのですが、実際には元金であれば交渉次第で待ってもらえたり減額してもらえたりします。
上記にあげた支払いを遅延するぐらいであれば、リスケジュール交渉を専門家とともにして、金融機関への元金を待ってもらったほうが、よっぽど良いです。
新規借入は難しくなりますが、金融機関以外の取引先にリスケジュールをしていることがバレてしまう可能性もありませんし、信用や信頼は金融機関を除けば、ほとんど傷つきません。
短期的な支払順序
例えば、月末には支払いが足らないが、翌月月初にはお金が入ってきて問題ないという状況であれば、社会保険料の支払いや諸経費の支払いを少し遅延して月初に支払うことをお勧めします。
短期的かつ一時的な資金繰り難の度に金融機関とリスケの交渉をするのは不可能ですし、金融機関の記録に残ってしまうことを考えると諸経費や社会保険料の支払いを入金後にしたほうが良いでしょう。
長期的な資金繰りに困っているのか、短期的な資金繰りに困っているのかによって、上記の順番は変動します。
上記の順番は一時的ではなく、数ヶ月にわたる中長期を想定した順番となっています。
絶対にやってはいけない資金繰り方法
高利貸しからお金を借りてくることは絶対にやめましょう。
その時点で事業は崩壊しています。
特に法人でではなく、個人名義で金融機関や親戚知人以外から借金をすることは辞めましょう。
法人であれば連帯保証しているもの以外は、個人には追求されませんが、個人で借りたお金を事業の資金繰りにあててしまうと、一生借金を返し続けなければいけないこととなってしまいます。
再起の可能性がなくなってしまいますし、最悪の場合、自己破産まで追いつめられてしまいます。
どんな事情があったとしても、金融機関や親戚知人以外からお金を借りるのは辞めましょう。
編集後記
一般的に考えられている支払順序とは違う箇所があったと思います。
特に金融機関には何としてでも支払いをしなければいけないと考えている事業主が多いのではないかと思います。
しかし、金融機関への支払いより、スタッフの給与、仕入先や外注先への支払いの方が重要です。
事業をしていくためには、金融機関より営業活動に関わってくれている関係者のほうが大事にしなければいけません。
もちろん、資金繰りを円滑に行い、支払遅延をおこさない経営をすることが、一番重要です。
今回の内容は最後の最後の手段だと思っていただければ幸いです。