資金繰りに困った時、どうしたら良いか悩む方も多いのではないでしょうか?
今回は王道編ということで、根本的な資金繰り改善の方法について書いていきます。
そんなことは知っているよ!という方も多いかも知れませんが、まずは基礎が大事です。
次回以降に、一時的な改善方法など書いていきますが、今回の内容でまずは基礎の部分を抑えていただけたら幸いです。
今回の内容は、メルマガ版財務講座「実践型!経営者向け財務講座 ~財務に強い経営者が見ている数字のポイント~」で配信している内容です。
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今回は『資金繰り改善の方法:王道編』です。(編集前のメルマガは2016年10月13日(木)に配信されています)
この記事の目次
利益を出す!
当たり前中の当たり前の話ですが、利益を出さなければ一時的な資金繰りはともかく、将来的な資金繰りは悪化します。
赤字の会社はすぐにでも黒字化を目指さなければいけません。
売掛金の入金を早める、入金してから支払うように契約条件を気をつける、支払を遅くする、借入をするなど、一時的な資金繰り改善方法はありますが、そもそも事業が赤字であれば延命処置はできても根本的な解決になりません。
利益を出すためには、売上を増やす(収入を増やす)、経費を減らす(支出を減らす)などの方法があります。
具体的な方法についてはまた次回以降にまた記事にしますが、やはり一番難関なのは新規のお客様の開拓ではないでしょうか?
業種によっては、再来店客数(リピート)を増やすことではないかと思います。
もちろんテクニックも大事なのですが、赤字の会社、特に改善がうまくいっていない会社については、まずは自社のビジネスモデルの見直しとマーケティングに基づいた戦略と戦術が大切になります。
以前のメルマガにまとめたので、興味のある方は読んでみてください。
→【VOL122】中小企業の経営に最低限必要なマーケティングの基礎
→【VOL123】マーケティングを最大限に活かすための消費者心理の基礎と代表例5つ
→【VOL124】マーケティングより大切なビジネスモデルの作り方
また、少しだけですが、営業や集客についての基本的なテクニックもこちらのカテゴリーで紹介してます。
税引き後利益+減価償却費と借入金の返済
税引き後利益+減価償却費が理論的な借入金の返済減資になります。
ですので、税引き後利益+減価償却費が借入金の返済額を上回っていれば資金は増えていきますし、下回っていれば資金は減っていきます。
但し、仮払金や有価証券の購入、経費にならない保険料などがある場合は、その分が税引き後利益+減価償却費からマイナスになりますが、ここでは税引き後利益+減価償却費と借入金の返済のバランスがまず大前提というお話です。
税引き後利益+減価償却費≧借入金の返済のケース
理論的には長期的な資金繰りには困りません。
しかし、現実には資金繰りが困難なケースもあります。
資金繰りが困難な代表的な理由は2つあります。
無駄な資産の増加
投資有価証券の購入、生命保険の支払による保険積立金の増加や貸付金、仮払金、立替金の増加など損益計算の際に経費にならない支出、かつ、本業とは直接関係ない支出の増加による資金繰り悪化のケースです。
このケースでは、投資有価証券は今本当に購入が必要なのかから見直しましょう。
多くのケースでは辞めても本業になんら影響がないケースがほとんどです。
影響があるケースは得意先の有価証券を定額購入しなければいけないケースなどですが、そのケースでは交渉の余地があるのか、ないのであれば、「税引き後利益+減価償却費ー必要投資有価証券の購入≧借入金の返済」になるように利益向上に勤める以外にありません。
(又は後述する、「税引き後利益+原価亜償却費≦借入金の返済」と同様の対策になります。)
投資有価証券に限らず、得意先、仕入先から取引額に応じて保証金を求められるケースも取引業者の規模や業種業態によってはあります。
一時的なものであれば借入でしのぐ、定期的に定額購入が必要であれば上記と同様に「税引き後利益+減価償却費ー必要保証金の増加額≧借入金の返済」になるように利益を改善していくしかないでしょう。
(又は後述する、「税引き後利益+原価亜償却費≦借入金の返済」と同様の対策になります。)
例外的に、投資有価証券や保証金を担保に借入ができるケースもあります。
そもそも担保設定できるだけの価値がある株式(有価証券)なのか、取引先との契約条項に担保設定不可となっていないか、など問題になる点があり、ハードルは低くありませんが、検討してみるのも一考です。
また、仮に上記条件を満たしていたとしても、勝手に担保設定してしまったら取引先との関係性に問題が出てしまうケースもありますので、それを交渉材料に定額の購入額を減らしてもらえないかの交渉などをするのもテクニックの1つです。
貸付金、立替金、仮払金などに関しては、スタッフへの必要経費の立替や福利厚生目的のため以外には必要ないものです。
何をいつ、何の目的で支払っているのかを確認して増えていかないようにしましょう。
運転資金の不足
売掛金、在庫の増加や買掛金の減少、季節変動による資金繰り難になるケースで、いわゆる運転資金の不足と呼ばれるものです。
売掛金が3ヶ月後入金、買掛金が1ヶ月後支払、月額の取引が売上300万円、仕入200万円であれば、この取引だけでも最初の2ヶ月は入金がない中、支払が200万円×1ヶ月=200万円必要となります。
利益は2ヶ月終了時点で売上(300万円ー仕入200万円)×2ヶ月=400万円となりますが、資金繰りは▲200万円です。
つまり、税引き後利益+減価償却費>借入金の返済となるのですが、資金繰りはマイナスという状態です。
しかし、3ヶ月目からは入金300万円(1ヶ月目の売上)と支払100万円(2ヶ月目の仕入)となり、収支と損益は一致することとなります。
※他の取引がない前提ですので、極端な例ですが…
ただ、売上が伸びている時は、例えば倍になり、2ヶ月目が600万円の売上、400万円の仕入となり、3ヶ月目の資金繰りは入金300万円(1ヶ月目の売上)ー支払400万円(2ヶ月目の仕入)=▲100万円となり、相変わらず資金繰りはマイナスとなります。
季節変動があるケースも同様で、売上の少なかった月の入金額で、仕入の多い月の支払をしなければいけないケースなどがあるので、資金繰りが困難の月がでてきます。
ただ、逆のケースもあるので、総売上額が増え成長拡大し続けている状況でなければ、トータルでみれば損益と資金繰りは一致します。
上記のようなケース(特に売上が増えている状況)では、金融機関から借入をするのが一番です。
借入の使途には、
(1)設備投資資金
(2)運転資金
(3)赤字補填資金
の三種類があり、(1)と(2)のケースに関しては比較的簡単に借入をすることができます。
(2)の運転資金を借りる場合には、損益と資金繰りは一致する以上、赤字でない限り、融資を受けて成長拡大による資金繰り困難時を乗り越えることが1番です。
上記最初の例であれば、2ヶ月目の▲200万円を乗り越えられれば良いわけですから、短期借入金で最低200万円借りれれば資金ショートはおきません。
このあたりの資金繰りと金融機関との付き合い方を考えていくのが、中小企業の財務や経理の仕事として必要です。(専任者をおくのか、経営者がやるのかは別として)
税引き後利益+減価償却費≦借入金の返済
利益は出ているのにお金が減っている状態です。
赤字よりは格段に良いですが、そのまま放置しておくと資金はショートしてしまいますし、儲かっているのに毎月資金が減っていくという状態がずっと続くので、余剰資金がたっぷりある会社以外は、資金繰りを気にしながら経営をしなくてはならなくなってしまします。
この場合の対策は以下の3通りになります。
返済分新規借入
利益が一定額出ている会社であれば、通常返済した分は追加融資を受けられます。
いわゆる折り返し融資です。
例えば1,000万円を5年で借りれば3年後には600万円(1,000÷5年×3年)は返済が終わります。
結果、返済した600万円は借入枠があるはずなので、追加で600万円が借りられることとなります。
5カ年などの資金繰り表を作り、いつどのタイミングで新規借入が必要かをシミュレーションし、事前に金融機関に伝えておけば、計画的な企業ということで融資も受けやすくなります。
但し、急激な業績の悪化などにより金融機関からの格付けが下がった場合には、借入枠が少なくなりますので、資金調達ができないこととなります。
つまり、金融機関に命綱を握られた状態というリスクを常に抱えながら経営をしなければいけなくなります。
→金融機関(銀行)の融資審査の最大のポイント、信用格付けを徹底解剖
→信用格付け対策が重要!信用格付けの企業へのメリットとデメリット
借換で返済額を減らす
もう1つの方法は借換で返済額を減らす方法です。
例えば同じ1,000万円の借入でも、最初は1,000万円÷5年で年間200万円の返済だったとしても、①でご紹介した折り返し融資を受けると600万円÷5年=年間120万円の返済がプラスされます。
つまり、4年目、5年目は、同じ総額1,000万円の返済にも関わらず、200万円+120万円=320万円の返済となります。
これが何度も続くと返済額は増額していき、1本1本の借入は5年で借りているにも関わらず、実質返済年数は2年程度ということが多々あります。
一度、「借入金総額÷年間返済額」で実質借入年数を計算してみましょう。
その上で、金融機関との実際の約定が平均何年になっているのかを調べ、「借入総額÷平均返済年数」を計算してみましょう。
現状の年間返済額と比較するとこんなにも少なくなるのかという感想を得られると思います。
どこかの金融機関にお願いして、複数本の借入を一度返済し一本化できないか考えてみましょう。
資金繰りは大きく変化することができます。
注意点は、
(1)都道府県や市区町村の借入制度を使って保証料の補助や利子補給金を受けている場合には、借換にともなって返還しなければいけないことがある点
(2)借換は通常であればリスケとは見られないのですが、同じ金融機関で一本化をすると金融機関からリスケと見られる可能性があること(借換前に新たに一本化で借りる金融機関に実質リスケ扱いになりますか?と聞いてみる良いと思います)
(3)借入限度額を超えて借りれないので、借入枠が1,000万円の会社が、1,000万円を一本化する場合に、先に新規借入1,000万円をして、すぐに1,000万円を返済しようとしても、一時的に借入残高が2,000万円になってしまいますので、断られるケースがあります。
(4)上記(3)と逆のケースですが、借入限度額を超えてしまうので、一度1,000万円を返済して1,000万円を借りるパターンです。
返済したは良いが、新規融資が受けられないケースが稀にあるので注意が必要です。
以前にも借換については書いてますので、こちらも参考にしてみてください。
リスケジュールで返済額を減らす方法
最後の最後の手段です。
利益がでている会社は金融機関からの追加借入ができる可能性が高いので、まずは上記①と②の方法を検討しましょう。
1,000万円を5年=年間200万円を返済する約束を、ごめんなさい返せないので返済する金額を減らしてもらえないでしょうか?と金融機関にお願いすることになります。
金融円滑化法以来、以前よりはリスケはしやすくなったと言われていますが、やはりハードルは高いのが現実です。
加えて保証協会や金融機関からは、ブラックリストとはいわないまでも要管理先とみなされ、その後新規借入ができる可能性は限りなく少なくなります。(過去の経験では東日本大震災の際にリスケ中の会社でも新規借入ができた会社はありましたが、それ以外はありませんでした。)
通常返済に戻すまでの改善計画等の提出が必要になる上に、通常リスケが認められるのは1年ですので、通常返済に戻せるほど業績改善ができていない場合には、毎年リスケのお願いをしなければいけなくなります。
赤字以外は借入で解決できる
極論になりますが、赤字以外の会社は借入で資金繰り難は解消できます。
運転資金のところでも解説しましたが、売上が伸びているときに、売掛金や在庫が増えることによる資金不足は、資金繰り表を作り、どのタイミングで資金不足がいくらおこるのかがわかっていれば、その分を金融機関から借りれば良いからです。
もちろん、回収不能な売掛金や、販売不能な在庫が増えて利益がでている状態では意味がありません。
上記のような資産は死産であり、その増加分は利益が出ているとはいえないからです。
→【VOL126】貸借対照表の罠!「資産」と「死産」を見極め健全な経営を。
設備投資などに関しても、上手に借入をすることが必要です。
3年しか使えない機械に5年の借入を起こし、今返済額が足りているから大丈夫と考えるのは早計です。
3年後には新たな機械を買うために、また借入を起こすのに、最初の機械の借入返済がまだ残っているわけですから、資金繰りは途端に厳しくなります。
借入は極力長い期間でした方が良いのは間違いありませんが、投資をする際はその投資額を使用可能期間内に回収しなければ、どんどん資金繰りは厳しくなります。
その際には法人税の存在を忘れないようにしましょう。
3年使用可能な機械を900万円で買ったから、1年に300万円稼げば良いわけではありません。
減価償却費の存在を無視すれば、300万円×40%=120万円、300万円-120万円=180万円しか残りません。
300万円÷(100%-40%)=500万円は税引き前で利益が必要となります。
(便宜上法人税は40%で考えています)
減価償却費との関係はこちらの記事を参考にしてください。
→【VOL93】借入をすると事業の成長は加速する??借入を上手に利用して効率的な経営を。
編集後記
今回は資金繰りを改善するための王道を書きました。
何はともあれ赤字は絶対にダメです。
どんな資金繰り対策をしても、延命処置に過ぎず根本的解決はやはり事業の黒字化となります。
貸借対照表経営、BS経営などと言われていますが、まずは利益がでていることが前提となります。
その上で、赤字以外は借入で解決できるという項目に書きましたが、財務戦略をキチンと練って投資を何年で回収するのか、金融機関からの評価をあげるためには?、貸借対照表経営による筋肉質で強い会社つくりなどという話しになります。
そうはいっても、そのために今の資金繰りをなんとかして、利益が出る体質を作るための時間が欲しいという会社も多いのが事実だと思います。
次回以降はテクニック的なことになりますが、資金繰りを一時的にでも改善できる方法を具体的に紹介していきます。