磁石

貸借対照表経営やPL思考からBS思考といわれるようになっていますが、実際に貸借対照表のどこをみたら良いのか疑問に思っている経営者の方も少なくないと思います。
自己資本比率や総資本利益率(ROA)などの言葉は聞いたことがあるかもしれませんが、実際に経営に役立つ指標として活用できている経営者は多くありません。

今回は貸借対照表ってどこを見たら良いの?という質問を実際にいただいたので、その見方のポイントについて書いていきます。

今回の内容は金融機関からの借入や投資家からの投資の視点ではなく、事業を経営していく上で見るべきポイントについてになります。
もちろん金融機関から借入ができるかどうかも経営していく上では大事になりますが、今回のテーマからは外れるので割愛します。
金融機関からの借入の際のポイントも確認したい方は以下の記事を参考にしてください。

金融機関の融資審査のポイント【貸借対照表編】

金融機関からの融資に関する記事はこちらからご確認ください。

「金融機関・銀行・資金調達」に関する記事一覧

金融機関の信用格付けについてはこちら

金融機関(銀行)の融資審査の最大のポイント、信用格付けを徹底解剖

信用格付け対策が重要!信用格付けの企業へのメリットとデメリット

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このメルマガはシリーズものになっていますので、

【VOL1】起業したら真っ先に見るべき会計の3つの数字

からお読み頂くことをお勧めします。

今回は『貸借対照表のどこを見たら良いのか?経営に役立つ5つのポイント』です。(編集前のメルマガは2016年9月26日(月)に配信されています)

事業規模による見るべき財務指標の違い

【VOL64】会計を経営に活かせ!決算書は税務署のために作るものではありません。にも書きましたが、貸借対照表経営(BS経営)の時代とか、キャッシュフロー経営の時代とかそういう言葉に惑わされるのは危険です。

もちろんすべての財務諸表や財務指標を理解できるのが理想です。
ですがすべてを理解するにはそれなりの労力が必要になります。

言葉や流行りに惑わされるのではなく、まずは事業規模に応じて必要な指標を見ていきましょう。

詳しくは以前の記事を見ていただくとして、おおよそのイメージはこんな感じになります。
※必ずしも当てはまるわけではないので、あくまでもイメージとして考えてください。

資金繰りのみの時期

通帳又は資金繰り表を見るのみで大丈夫です。
自身で取引状況を把握でき、入出金を管理している規模の時は資金繰りのみ見ていれば問題ありません。
そして、資金繰りを重視した経営こそがキャッシュフロー経営ですので、この概念は重要です。
自身でやるのか、スタッフや外注パートナーにやってもらうのかは別としても、絶対に必要な指標となります。

損益計算書の時期

取引先からの売上が売掛金として未回収になる期間が長いかったり、取引先への支払が未払金として長い期間残ったり、または入金と支払のサイトの乖離が激しい場合には損益計算書の出番となります。(サイトの乖離が激しい場合には同時にキャッシュフロー計算書も必要なケースが多いですが・・・)

また、スタッフが多くなり、自分自身で取引状況のすべてを把握できなくなってた場合には、損益の把握も資金繰り表だけでは厳しくなるので損益計算書が必要となります。

キャッシュフロー計算書が必要な時期

損益計算書では利益がでているのに手元にお金がない、または、損益計算書では赤字なのにお金があるというような状況が発生するような時期になるとキャッシュフロー計算書を見る必要が出てきます。

キャッシュフロー計算書は、キャッシュフロー経営に必要な資料ではなく、損益計算書の利益と手元の現金預金の増減の差を表す表です。

なぜ利益がでているのに手元にお金がないのかがわかると同時に、どうしたら良いかのヒントをくれる指標となります。

貸借対照表が必要な時期

事業の基本は、資金の調達→投資→回収となります。
資金繰り表や損益計算書、キャッシュフロー計算書では、今どれだけお金の調達をしていて、そのお金のうちいくらを投資していて、いくら回収済みなのかがわかりません。

そのバランスが唯一わかる財務諸表が貸借対照表になります。

経営に役立つ貸借対照表の見るべき5つのポイント

冒頭にも書きましたが、金融機関からの評価をあげるポイントではなく、経営者が経営に役立つ数字を得るためのポイントとなります。

現金預金残高

現金預金に関わらず貸借対照表は各項目の残高を表す指標となります。
現金預金の残高は資金繰り表を見てもわかりますが、他の項目(例えば売掛金、買掛金など)に関していえば、他の指標を見てもわかりません。
貸借対照表は一定時点(多くは月末時点)の各項目の残高を見る指標です。

その中でも現金預金の残高はとても大切です。
今、利益が出ていても、将来利益がでることが確約されていても、現在現金預金がないと事業は継続できません。

貸借対照表の視点からいえば、安定経営をしたいのであれば総資産の30%は現金預金を持っておくことが理想となります(総資産の何%現金預金を持っているかをネットキャッシュ比率などといいます)

また、運転資金を最低いくらもっていなければいけないかの目安は【VOL39】事業に必要な運転資金を「月商何ヶ月分」という危険な考え方をしていませんか?に詳しく書かれていますので、気になる方はぜひご覧下さい。

借入金

金融機関からの借入がいくらあるのか、その残高と毎月の返済額は必ず目を通すことをお勧めします。

借入金の総額ー現金預金の残高=実質借入金

となります。

役員などからの借入については返済予定があるもののみ借入金の総額にいれて計算しましょう。

また、貸借対照表の観点から考えれば外部からの借入金の比率を短期長期含めて、総資産の30%程度にすることが理想です。

更には、簡易的な計算ですが、「税引き後利益+減価償却費」の直近3年程度の平均×10ー金融機関からの借入金総額=借入可能額と考えられます。

※他の条件も金融機関から借りる際には重要になってきますので、詳しくは「金融機関・銀行・資金調達」に関する記事一覧をお読みください。

続いて毎月の返済金額についてですが、これを知ることで借入総額が将来どのくらい減るかを予測できるので、将来の借入計画を立てる参考にすることができます。

借入金の返済は損益計算書に出て来ないにも関わらず、お金がへる項目となります。(厳密には貸借対照表にも毎月の返済額はでてきませんが・・・)

なので、毎月いくら稼いだら借入金の返済ができるのか、つまり理論上手元現金預金が減らないかがわかります。

毎月の借入金の返済額÷法人税の実行税率=手元現金預金を減らさないために稼がなければいけない経常利益(厳密には税引き前利益)となります。

利益計画を立てる際にはこの金額が重要となります。

自己資本比率

良くでてくる項目ですが、やはり重要です。
貸借対照表を見た時点の総投資金額に対して自分のお金(自己資本)が何%を見るための指標です。

投資している金額のうち自己資本が占めている割合が高ければ高いほど、経営は安定しているといえます。

逆に投資している金額のうち、他人のお金(=負債)が多ければ多いほど、将来返済や支払の義務があるわけですので、財務的には不安定
といえます。

まず目指すべき数値としては自己資本比率30%を当サイトでは推奨しています。

高ければ高いほど安定しているという側面もありますが、事業の本質が「資金の調達→投資→回収」だと考えると借入のチャンスがあるのに借りておらず、チャンスを逃しているという考え方もできるからです。
この辺はバランスになってくるので、他の指標と合わせて個別に分析しないとわからない箇所ではありますが・・・

未回収の投資金額

事業を始めてから「資金の調達→投資→回収」を繰り返し続けることになります。
1案件や1事業別に未回収額を出すためには部門会計を貸借対照表にも導入する必要がありますが、全社として未回収がどのくらいあるかをみるためには、貸借対照表のみで確認できます。

総資産ー利益剰余金ー現金預金=投資が先行している未回収の投資額

となります。

利益剰余金がマイナスの場合には足してください。

現金預金に関しては、現金預金として寝かしていてまだ投資していないとここでは考えているためにマイナスしています。
(経営上絶対に必要な手元現金預金はあるので、厳密には必要手元現金を除いて、余剰手元現金預金のみマイナスするというのが正しいのですが、考え方が複雑になるので全額マイナスにしています)

事業形態によっては、お金の投資はほとんどしなくても、利益がでることもありますが、多くの事業はまず投資して回収する、回収し終わる前に次に投資するということを繰り返しますので、多くの場合、未回収の投資金額はプラスになるはずです。

未回収の投資金額があることが悪いことではありません。

1年前や5年前と比べて、未回収の投資金額が増えているのか、減っているのかを確認することに意味があります。
新規投資をしていないにも関わらず未回収の投資金額が増えている場合には、損益計算書上の利益が出ていても問題がありますので、その原因を確認する必要があります。

在庫と固定資産

敷金や保証金に代表される「お金が寝ている」状態にある資産がどの程度あるかを確認しましょう。

また、持っている固定資産もお金が寝ている状態にあるので、その固定資産を持つことで事業経営上のメリットがどの程度あるかを確認する必要もあります。

例えば販売できない在庫や使っていない機械、備品、土地などがある場合には、売却も検討する必要があります。
借入金が多いのに使っていない資産が多い場合などは、利息を払いながら資産を持ち続けていることになりますし、総資産額が増え自己資本比率も悪化させる原因となります。

在庫にしても固定資産にしても貸借対照表にでてくる金額は、損益計算書では費用になっていません。
在庫や固定資産が増えている場合には、それが投資としてお金を生むもの、もしくは生んでいるものなのかを貸借対照表をみながら考えてみましょう。

在庫や固定資産は資産の部に計上されますが、将来の収益=投資の回収に貢献していないものは「死産」です。

粉飾決算はするだけで問題ですが、粉飾決算でよく使われる科目の一つに在庫があります。
水増しした在庫は当然販売できませんから将来利益を生みません。

在庫や固定資産が増えている場合には、資産なのか死産なのかキチンと注意しましょう。

磁石

編集後記

貸借対照表の見るべきポイント5つに触れましたが、仮払金などの仮勘定や、事業とは関係ない貸付金など、当たり前のことには触れませんでした。

帳簿がうまく整理できてなく、かつ、税理士など他人任せだと不明金はすべて役員の貸付金になっていたりするので、そういう場合には貸付金にも注目してください。(税理士が悪いのではなく、不明金がでている状態が悪いということは一言そえておきます。その指導ができない税理士にも責任はありますが・・・)

また、業種によっては前受金が多く手元にお金がたくさんになってしまうのであれば前受金を注意してみる必要がありますし、売掛金が溜まりやすい業種であれば、売掛金に注目するなど、業種業態によって見るべきポイントが違う部分はありますが、一般的なポイントについて書きました。
※未回収の売掛金がないかのチェックをするのは当たり前なので触れていません・・・。

貸借対照表経営やキャッシュフロー経営という言葉に騙されず、各資料が何を見るべき資料なのか、そしてそのつながりはどうなっているのかを理解して、会計を経営に活かせていただけたらと幸いです。

最後に

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その他の貸借対照表についての記事はこちら。

【VOL46】未来の貸借対照表をつくってみよう!

【VOL47】目標貸借対照表の作り方

【VOL48】貸借対照表とは?BS経営のための貸借対照表の読み方の基礎

【VOL49】中小企業は貸借対照表の傾向で経営者の経営方針がわかります。

【VOL50】貸借対照表で見るべき大事な数字:自己資本比率とは?

【VOL51】貸借対照表は会社の歴史であり未来像である:BS経営の入り口

【VOL52】一目でわかる!簡単な貸借対照表のポイントは資金の流動性です。

【VOL53】企業の安定度をみるための貸借対照表の数字

【VOL54】安定企業を目指すために抑えておきたい貸借対照表の数字とは?