複数の金融機関に口座を持ったほうが良いとか、複数の金融機関から借入をしたほうが良いとか、言われたことがあるかもしれません。
企業にとって金融機関との付き合い方は、企業の存続や発展を左右する可能性があるほど重要なものです。
今回は複数の金融機関と付き合うメリットについてまとめてみました。
この記事の目次
複数の金融機関と付き合うメリット
一般的には複数の金融機関と付き合うのが良いと言われています。
その理由は、大きくわけて以下の2つになります。
金融機関の業績や方針に左右されない
何事もリスク分散と言われますが、何かが起こった時に金融機関1行としか取引がないのは危険です。
企業側の業績が悪くなった場合でも、ある金融機関では融資ができないという判断、ある金融機関では融資できるという判断、と判断が分かれることはあり得ます。
また、企業側の事情ではなく、金融機関自体の業績や本部や支店長の方針によって融資のスタンスが変わることもよくあります。
こういうリスクを分散するには複数の金融機関と同時に付き合っておくことが重要になります。
なぜなら、金融機関にとって一番重要なのは取引実績(融資実績)であり、困った時に突然行っても融資をしてくれないからです。
自社の業績がよく好調な時にこそ、取引する金融機関を増やしておきましょう。
金融機関に競争意識が起きる
これも全てに共通しますが、金融金も例外ではありません。
何かを購入する際にも1社しか見積りを取らないより、複数社から相見積りをとったほうが、安くなる可能性は高くなります。
金融機関も同様で、1行独占状態ですと、担保面や金利、返済条件、借入金額、借入期間を他の金融機関の目を気にすることなく提示出来てしまいます。
そこに、他の金融機関ではこういう提案があって…という話をすることではじめて競争原理が働くことになります。
もちろん通常の取引と同じように、競わせ過ぎたり、目先の利益(取引なら価格、金融機関なら金利など)だけを求め過ぎたりしてはいけませんが、金融機関も営利事業である以上、独占状態はよくありません。
そう、金融機関のほとんどが営利企業なので、競争して当たり前なのです。
それを1行独占状態にしておく必要はありません。
複数の金融機関と付き合う際に気をつける点
良い点ばかりの複数の金融機関と付き合うメリットのようですが、気をつけておきたい点がいくつかあります。
手形割引枠は融資を受けた金融機関とは別の金融機関にする
万が一、自社の業績が悪くなり、リスケジュール(返済条件の変更等)のお願いなどを金融機関にした場合、同一の金融機関からは新規融資や手形割引ができる可能性が低くなります。
通常、リスケジュールはメイン銀行を中心に融資をしている全銀行が足並みをそろえてやることが多いので、A銀行だけリスケジュールで、B信用金庫は通常返済ということはありません。
なので、融資を受けた金融機関に手形割引をお願いしていると、リスケジュールした際には当然金融機関の知るところになり、手形割引もできなくなる可能性が高くなります。
また、融資を受けている場合、毎年の決算により企業の評価を金融機関は毎年見直しているため手形割引の枠まで変動を受けることがありますが、手形割引のみの場合には、企業の評価を毎年厳格には見直していない金融機関が多く、手形という担保がしっかりしているので、割引枠の変動を受けることが少ない傾向にあります。(手形の振り出し先の信用度にもよります)
※リスケジュールとは、例えば借りた時の返済条件は毎月30万円でしたが、業績が厳しくなり、15万円しか返せないので、返済条件を変えて欲しいなどという要望を出し、金融機関が認めるケースのことをいいます。
なので条件変更(=リスケジュール)といいます。
返済を0円にして一定期間利息しか支払わないケースもあります。
各金融機関からの融資残高を均一にしない
例えば、5つの金融機関からお金を合計1、000万円借りている場合に、1行あたり200万円ずつなど、どの金融機関に対しても融資残高がほぼ均一の場合をいいます。
この場合、どの金融機関も自社が手を引いても、この企業は他の金融機関との付き合いがあるので、この会社は潰れないと思われてしまい、追加融資やリスケの相談をしてもどこも引き受けてくれない可能性があります。
当然、1つの金融機関から800万円、あと4つの金融機関で50万ずつ200万円で1、000万円というのも、ほぼ1行独占状態となってしまうので、お勧めできません。
その金融機関が手を引いてしまったらどうにもならないからです。
一番理想的なのは、1つ目の金融機関から500万程度借り、2つ目から350万程度借り、この2つをメイン、サブとし、他の3つから50万円ずつ借りるなどの方法です。(400万、300万、100万×3でも構いません)
昔からいわれるメインバンクとは定義が違いますが、上位2行がお互い牽制し合うことで競争原理も働きますし、どちらも相応な割合の融資をしているので、簡単には手をひきづらい状態です。
また、いざどちらかに見捨てられても1行は残るのでリスクヘッジにもなります。
担保バランスに気をつける
せっかく融資残高のバランスをとっても、担保がある金融機関に偏ってしまっていれば、他の金融機関は担保のある金融機関をメインバンクだと思います。
例えば、1,000万円の土地を担保に、A銀行から500万円、担保なしでB信用金庫から500万円借りていた時に、自社の業績が悪くなった場合、A銀行は担保余力があるから協力体制を取ろうと思う可能性が高いですが、B信用金庫は可能な限り早く返してもらおうと考えるのが普通だと思います。
こういうことが起こらないように、可能であれば、融資残高の割合と同様の担保割合を維持するようにすることが得策です。
但し、融資残高は毎月変動するのに対し、担保は根抵当で入れてしまえば、簡単には動かせないので、同じ割合を常に維持するのは困難です。
※担保や抵当についてはこちらを参考にして下さい。
→借入基礎知識:担保編 ①金融機関はなぜ担保を求めるのか
→借入基礎知識:担保編 ③不動産の評価方法と担保になりにくい不動産
最低でも、上位2行の担保割合は同じ、または当初の借入額の割合にしておくことをお勧めします。
無理してまで複数の金融機関と付き合う必要はない
金融機関は実績、つまり融資実績と返済実績を重視するので多少無理してでも金融機関との付き合いはしておいたほうが良いと思います。
今まで無借金の会社が、急に借金を申し込んできたら、金融機関でなくても警戒するのが普通です。
そういう警戒をなくすためにも、融資を受け、常日頃から試算表や決算書などの財務諸表を使って金融機関に業績を報告しておくことが金融機関との付き合いを円滑にします。
しかし、起業したてであったり、規模の小さい会社であったり、経営方針が借入をしない会社であったりする場合には無理に複数の金融機関と付き合う必要はありません。
複数の金融機関と付き合う第一の目的はリスクヘッジです。
借入を増やすことがリスクを招くのであれば本末転倒です。
それよりも、金融機関の種類を気にするべきだと思います。
金融機関には都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合、政府系金融機関、ノンバンクなどたくさんの枠組みがあります。(ノンバンクが金融機関に該当するかはここではおいておきましょう。)
その辺りのことは以前まとめましたので、以前の記事を参考にしてみて下さい。
→経営者が知っておくべき金融機関の種類と選び方 ①都市銀行と地方銀行編
→経営者が知っておくべき金融機関の種類と選び方 ②信用金庫・信用組合と政府系金融機関 編
→結局どうやって金融機関を選んだら良いのか? 都市銀行、地方銀行、信用金庫・信用組合、政府系金融機関
編集後記
複数金融機関と付き合うメリットは本当に大きくあります。
私が体験した実際の事例としても8、000万円の借入がメインバンクからでは返済期間7年が限度だったものを、紹介したその会社と取引実績がない金融機関は返済期間10年で、金利も0.5%近く安かった記憶があります。
不動産の担保をメインバンクにしていたので、その担保の付け替え、つまりメインバンクから取引実績がない金融機関への変えることが、取引実績のなかった金融機関の要望だったため、現実的には実現しませんでした。
しかし、このことをメインバンクに話したら、次の日には返済期間10年で金利は更に安くなった提案を持ってやってきました。
これはメインバンクごと変わってしまうような案件だったため、メインバンクの担当者がだいぶ譲歩した案件ですが、競争原理が働く状態の金融機関の対応と、競争原理のない独占状態の金融機関の対応の違いがよくわかる良い例だったと思います。
長い付き合いで義理や人情もあると思いますが、他の金融機関の話を聞くことも大切だと思った瞬間でした。
ところで、久々の更新になってしまった金融機関シリーズですが、懲りずに少しずつ更新していきます。