前回の長期借入金と重複する箇所も多いですが、金融機関が着目してみる科目の1つです。
短期借入金は少額のケースが多いですが、長期借入金は金額も大きく期間も長くなるケースが多いので、より慎重に審査されますので、どんなところが着目されるのかを把握して、キチンと説明できるように準備しておきましょう。
前回の短期借入金に関してはこちらから。
→金融機関の融資審査のポイント【短期借入金の内訳書編】
この記事の目次
資金使途
短期借入金の際にも少しご説明しましたが、設備投資資金なのか、運転資金なのか、資金使途が確認されます。
資金使途が設備投資資金の場合
対象資産が確認されます。
購入資産の購入価格と、そのための当初の借入金額を確認される一方で、現在の購入資産の減価償却後の残存価格と借入金額の残高を確認されます。
例えば1,000万円の資産を購入するために、1,000万円の借入をした場合、借入自体には問題がありませんが、その資産の耐用年数が5年にも関わらず、借入金の返済が10年などといった場合には問題が生じてきます。
5年後に1,000万円の資産が耐用年数を負え、買い替えが必要なときがきても、借入金はまだ500万円残っているということになります。
つまり、また1,000万円借りて資産を買った場合には、1,000万円の資産に対して、1,500万円の借入(新規借入1,000万円+借入残500万円)となり、実質財務状態は悪化していると見られます。
そう見られないためにも、500万円を現金預金で残しておくか、それ以上の利益を出していることを決算書から説明できる必要があります。
資金使途が運転資金の場合
赤字による資金不足による借入なのか、それとも一時的な入出金のタイミングがズレているための借入なのか、恒常的な入金支払サイトのズレによる運転資金の補填のための借入なのか、などを確認されます。
赤字による資金不足による借入であれば、黒字化しているのか、もしくは黒字化する見込みはあるのか、返済原資はどうやってつくっているのかなどを確認されます。
一時的な入出金のタイミングによるズレであれば、なぜ短期借入金ではなく、長期借入金なのかの理由を聞かれます。
入金支払サイトのズレによる運転資金の補填であれば、理論上の不足する金額に対して借入金の残額が上回ってないかなどを確認されます。
例えば、入金が2ヶ月後、支払が1ヶ月後であれば、不足する資金は支払金額の1ヶ月分のはずです。
決算書の仕入金額が1,200万円であれば、月平均の仕入額は100万円ですから、不足する資金は100万円になるので、借入残額が100万円以下か確認されます。
100万円を超えている場合には、その合理的な説明が必要となります。
参考記事:
→金融機関の融資審査のポイント【取引条件と推定有り高編】
保証人や担保の有無
短期借入金の説明の時と同じですが、他の借入先に何を担保に差し入れているのかとか、保証人に誰がなっているのか等は金融機関は気にします。
なぜなら、いざ返済が難しくなった際に、どう回収するのか、その方法を考えて置かなければいけないからです。
参考記事:
→借入基礎知識:担保編 ①金融機関はなぜ担保を求めるのか
→借入基礎知識:担保編 ③不動産の評価方法と担保になりにくい不動産
借入金が増えている場合
前年比と比較して借入金が増えている場合には注意が必要です。
新たな設備投資等があり、対応する資産がある場合や、客観的に新規事業等に投資していることがわかるような資料がある場合には問題ありませんが、それ以外の場合には資金繰りに困っての運転資金の借入と見られるケースが多いようです。
運転資金の借入でも、売上が増えている局面での売上仕入(入金支払)サイトによる借入や、業務量が増えたことによる人の増加による人件費の支払のため等であれば問題はありませんが、そういった明確な理由が必要となります。
借入金が返済予定より減っていない場合
金融機関からの長期借入金のほとんどが、月額◯万円の返済や半年に1度◯万円というように、返済予定が決まっています。
内訳書には金融機関別に借入金額を載せなければいけませんので、新規借入がないのに返済予定より借入金額の残高が減っていない場合には、リスケジュール(返済条件変更)が疑われることとなります。
リスケジュールをしている場合
ほぼ、新規借入をすることは不可能と思って下さい。
参考記事:
→うっかりやってしまいそうな借入がNGになる8つの行為。
新規の借入先が増えている場合
特に新規の金融機関が増えている場合で、今までは都市銀行だったのにも関わらず、新規が地方銀行や信用金庫など、都市銀行から比べるとランクが落ちているケースは注意が必要です。
今までの付き合いのある都市銀行から借入を断られたのではないかと疑われることとなります。
単刀直入に、断られたのですか?と聞かれることはないですが、なぜ新規の金融機関が増えたのかを明確に説明しましょう。
説明する1つの理由として、「複数の金融機関と付き合うメリットと注意点」の記事がお役に立つと思います。(金融機関に直接言うとマイナスになってしまう部分も含まれていますが…)
参考記事:
→経営者が知っておくべき金融機関の種類と選び方 ①都市銀行と地方銀行編
→経営者が知っておくべき金融機関の種類と選び方 ②信用金庫・信用組合と政府系金融機関 編
編集後記
金融機関からの借入金をメインに解説しましたが、どこの金融機関も気にすることはほぼ同じです。
また複数の金融機関から借入をしている場合には、メインの金融機関の動向をメイン以外の金融機関が気にするケースもあります。
どの勘定科目に関してもそうですが、経営者自身が自分の会社の経営状態を自身で把握し、自分の言葉で説明できることが大事です。
そのために、どこが着目されるのかを事前に把握し対策を考えましょう。
対策というのは、決して借入をしたい時の言い訳を考えるのではなく、日々の経営の中で、こういう取引をしたら、金融機関からどう見られるのかを意識しながら、経営判断の1つの指標として頂けたらという意味です。
金融機関と上手に付き合えるかは、中小企業の存続のカギとなります。