融資審査において減価償却費という科目は非常に重要です。
金融機関の融資の基準の1つに、貸出限度額は「(税引き後利益+減価償却費)×10年」という考え方があるくらい重要視されている指標となります。
つまり、貸出限度額を増やすためには、税引き後利益を増やすか、減価償却費を増やすかという話になりますが、税引き後利益を増やすと当然税金が増えてしまい、支払も増えることとなります。
一方、減価償却費は経費ですが、お金の支出のない経費科目ですから、支払がないにも関わらず、節税にもなり、金融機関の評価もあげてくれるという、一見魔法のような科目ともいえます。
そんな減価償却費について解説致します。
参考:
→【VOL2】減価償却費に代表される会計の罠にひっかからないように気をつけましょう!
魔法の減価償却費が、魔法の科目でなくなるとき…
一見魔法のような減価償却費という科目でしたが、減価償却費が魔法の科目でなくなるときがあります。
減価償却費は元々過去に買った資産の償却ですから、意図的に増やしたり減らしたりということは原則できません。(特別償却をするかしないかなど一部の例外はありますが…)
そして、例えば同じ車を買ったのに、ある経営者は5年で減価償却をし、ある経営者は10年で減価償却をしたのでは、利益を意図的に調整できることになる上に、同じ取引なのに収益力にばらつきがでてしまい比較しづらくなってしまうので、資産毎に償却年数と償却方法が決められていて、経費にできる金額が決まっています。
お金の支払がないのに経費となるので節税にもなり、金融機関の評価もあがる魔法のような科目である減価償却費が魔法でなくなるときですが、それは、減価償却費を計上すると赤字になってしまうケースです。
金融機関の評価において赤字は絶対悪である
1期の赤字はともかく、2期連続赤字はNGであるという金融機関はたくさんあります。
いくら金融機関の貸出限度額が「(税引き後利益+減価償却費)×10年」を1つの基準としていても、赤字の会社となると難しいのが現実です。
例えば、
①税引き後利益▲500万円+減価償却費700万円=+200万円
②税引き後利益100万円+減価償却費100万円=+200万円
の会社があったとすると、税引き後利益+減価償却費はどちらも200万円ではありますが、②の会社のほうが融資審査には有利です。(①のケースが絶対に貸せないということではありませんが…)
※税引き後利益+減価償却費=マイナスの場合は融資は担保がない限り難しくなります。
減価償却費の過小計上は融資審査にはNG
よく見る粉飾の手法として減価償却費を計上しないケースがあります。
税金の計算では、経費で計上することで損金にできるものと、経費に計上しようがしまいが強制的に損金に計上するものがあります。
恐らく、税理士からすると減価償却費は前者の任意計上のものなので、黙認(場合によっては税理士から勧める場合も…)するのだと思いますが、融資審査という観点からすると致命的です。
粉飾はどんな場合でもお勧めはしませんが、他の粉飾は一見すると粉飾しているように見えないものがおおいですが、減価償却費の過小計上だけは、税務署への申告書の中の別表16と呼ばれる法人税の計算書のうち減価償却にかかる計算書の中に、減価償却費不足額として、過小計上分が明確に表示されてしまうからです。
つまり、ちょっと勉強した金融機関の担当者であれば一発で粉飾していることがわかるということです。
粉飾が明らかな企業への融資を避けたいのは当然のこととなります。
※粉飾は金融機関も承知の上で貸しているという意見もあります。そういう側面もあると思いますが、あくまでも黙認であり、いざとなったら手のひらを返されるということを忘れずに。
減価償却費の過小計上の例外
稀にですが、減価償却費を過小計上していても借りることができるケースがあります。
例えば、車両の減価償却費は定率法で5年〜6年程度となっているため、初年度や2年目の償却額が非常に大きくなってしまいます。
また、実際には10年は事業に使えるケースがあります。
定率法だと、毎年同額の償却をして経費を計上していくのではなく、最初にたくさん償却しなくてはならないため、購入した年は赤字になりやすいという現実があります。
これは車両は、中古になると売ろうとしたときの販売価格が安くなるからということも理由の一員としてあるのですが、ずっと車両を使おうと思っているような運送業などからすると致命的です。
車両の購入台数も多いですし、トラックとなると金額も大きくなります。
この場合に実態に合わせる形で初年度や2年目の償却費を過小計上したり、償却年数を10年になるように調整したりするケースがあります。
もちろん本当であれば、税務署に届け出をし、定額法(毎年同額の経費を計上する償却方法)に償却方法を変更してもらうか、耐用年数の変更をお願いした上で、そういう会計処理をしなくてはなりません。
しかし、そういう手続きをしていなくても、黙認という形で、実態に即さない会計ルールがあるような場合で、毎年継続して同様のルールでやっているような企業には、お金を貸してくれるケースがあります。
但し、金融機関の担当者が「会計のルールが実態にあっているから仕方ないですよね」などといっても、減価償却費の過小計上を承認したわけではなく、黙認しているだけということをお忘れなく。
ちょっとでも貸したくない事情が出てくれば、減価償却費の過小計上を理由に突然断ってくるケースがあることを覚悟しておきましょう。
昨年までは黙認していたのに…などというのは理由になりません。
編集後記
減価償却費は融資審査において非常に重要な項目です。
信用格付けの点数にも大きく影響してきます。
テクニック的なことを言えば、中小企業の30万円未満の少額資産の経費計上を何の科目でしているかによって、金融機関の信用格付けの点数が変わってきたりします。
減価償却費で計上していれば、「税引き後利益+減価償却費」の計算に入ってきて有利になりますが、他の科目、例えば備品費や機材費、消耗品などの科目で計上されていれば、信用格付け上は何の点数にもなりません。
→金融機関(銀行)の融資審査の最大のポイント、信用格付けを徹底解剖
→信用格付け対策が重要!信用格付けの企業へのメリットとデメリット
同じ結果であっても、金融機関の評価を変える方法はたくさんあります。
信用格付けの仕組みや金融機関の考え方を知り、自社の経営に活かす参考にしていただけたら幸いです。