一定の資格要件を満たせば、借入の際の経営者の個人保証が不要になる「経営者保証に関するガイドライン」について前回、目的と要件を説明してきました。
では、一定の資格要件とは何なのでしょうか?
今回は、信用保証協会の資料を参考に資格要件を具体的にご説明します。
前回の記事
→【VOL142】経営者保証に関するガイドラインの目的と要件
信用保証協会とは
→信用保証協会の責任共有制度とは?信用保証協会の基礎。
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今回は『経営者保証に関するガイドラインを活用するためのチェック項目』です。(編集前のメルマガは2017年2月27日(月)に配信されています)
この記事の目次
経営者保証ガイドラインの要件
前回も書いていますが、経営者保証ガイドラインに載っているのは、
(1)会社と経営者の関係が明確に区分・分離されていること
(2)法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えていないこと
(3)適時適切に財務情報が提供されていること
(4)財務要件を満たしていること
となっています。
では具体的に何を判定要件に、会社と経営者の関係が明確に区分・分離されていると解釈するのか、とか、財務要件を満たしていること、とかを判定するのかについては具体的になっていません。
そこで参考になるのが、信用保証協会がだしている「経営者ガイドライン対応保証-資格要件確認シート」です。
ここには具体的な判定基準が書かれています。
「経営者ガイドライン対応保証-資格要件確認シート」
具体的に以下4つの区分から具体的な観点で基準が決まっています。
(1)会社と経営者の関係が明確に区分・分離されていること
(2)法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えていないこと
(3)適時適切に財務情報が提供されていること
(4)財務要件を満たしていること
1つ1つの区分毎に要件を確認していきます。
会社と経営者の関係が明確に区分・分離されていること
法人で使用している工場の所有者が代表者個人だったり、代表者一族の誰かだったりと、個人と法人が一体になっていないかをチェックする項目です。
以下の①〜⑥の観点で判定し、
①〜④のうち1つ
⑤か⑥のどちらか
を満たしていれば、この区分はクリアとなります。
①本社・工場・営業者等の営業用資産をすべて申込人が所有している
不動産の登記簿謄本や固定資産評価証明書などで申込人本人(法人)の所有か否かを確認されます。
②本社・工場・営業者等の営業用資産の全部または一部を申込人以外の者(経営者を含む。)が所有しているが、申込人から適切な賃料が支払われている
賃貸借契約書の写とお金の支払根拠(通帳や領収書)を確認することで証明されます。
③法人税法を根拠とする同族会社ではない
判定基準がややこしいですが、簡単に言うと、上位3つの一族で50%以上の株式を所有していると同族会社とされます。
多くの中小企業が同族会社です。
④申込金融機関の内部基準等に基づき「申込人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている」と判断できる
各金融機関の基準によって判定されます。
保証協会は、金融機関からの「申込人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている」と判断したことを示す申込金融機関の理由説明書を受け取ります。
⑤取締役会の適切な牽制機能の発揮のため、取締役又は監査役が親族以外の第三者から選出され、当該第三者が取締役会に出席し開催している
定款および取締役会議事録などで確認されます。
③の同族会社の規定をクリアするのは難しくても、取締役や監査役を第三者から選出している会社も多いので、こちらは要件を満たしている会社もあります。
⑥役員報酬の決定プロセスのルール化、社内監査体制の確立等に対し外部専門家(弁護士、公認会計士、税理士等)の検証がなされている
外部専門家(弁護士、公認会計士、税理士等)の検証を受けたことを示す報告書(写)の提出をもって証明します。
法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えていないこと
経費の中に経営者個人の私的な飲食費があったり、経営者個人の車を買うために会社が経営者にお金を貸し付けていたりなど、社会通念上適切な範囲を超えていることがないかどうかを確認する区分です。
以下①〜③のうち、1つを満たせばこの区分はクリアとなります。
①役員報酬・配当・経営者への貸付等が同業・同規模の他社の平均的な水準を上回っていないことについて外部専門家(弁護士、公認会計士、税理士等)の検証がなされている
外部専門家の客観的な視点から平均的な水準を上回っていないかを判定します。
外部専門家の検証を受けたことを示す報告書にて確認されます。
②事実上の必要が認められない申込人から経営者への貸付は行われていない、経営者が個人として消費した費用(飲食代等)について申込人の経理処理としていないことについて外部専門家(弁護士、公認会計士、税理士等)の検証がなされている
これも同じく外部専門家からの客観的な視点にて判断されます。
同様に外部専門家の検証を受けたことを示す報告書にて確認されます。
③申込金融機関の内部基準等に基づき「申込人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えていない」と判断できる
外部専門家ではなく、金融機関の視点か判定されます。
「申込人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えていない」と判断したことを示す申込金融機関の理由説明書によって保証協会は確認します。
適時適切に財務情報が提供されていること
専門用語が多く以外と難しい部分になりますが、税理士に聞いて頂ければすぐにわかる部分で、かつ、基準を満たすのもそれほど難しくないものも含まれています。
わからないものも多いと思いますので、税理士などの専門家に聞き、どうしたら基準を満たせるか相談してみるのをお勧めします。
①〜⑥のうち、1つ満たせばこの区分はクリアです。
①財務諸表の作成に携わった公認会計士又は税理士から「中小企業の会計に関する指針」のすべての項目について摘要状況の確認を受けている
日本税理士会連合制定の「中小企業の会計に関する指針」の摘要に関するチェックリストにて確認されます。
公認会計士又は税理士からチェックリストをもらいましょう。
②財務諸表の作成に携わった公認会計士又は税理士から「中小企業の会計に関する基本要領」のすべての項目について摘要状況の確認を受けている
全国信用保証協会連合会または日本税理士会連合会制定の「中小企業の会計に関する基本要領」の摘要に関するチェックリスト及び会計割引制度の利用に関する確認・同意書にて確認されます。
③会計参与設置会社
会計参与を設置している登記を行った事項を示す書類にて確認されます。
会計参与とは、取締役会、監査役会と並ぶ法人の内部機関で、株主総会によって選ばれ、公認会計士・監査法人・税理士・税理士法人のいずれかであることを要します。
監査役会設置会社や取締役会設置会社などと同様に呼ばれ、会社法に定められた会社の内部機関の1つです。
④金融商品取引法の摘要を受ける会社並びにその子会社及び関連会社等
公認会計士または監査法人の監査を受けたことを示す監査報告書(写)にて確認されます。
税理士法第33条の2に規定する計算事項等を記載した書面を税理士が作成している
申告書の作成を税理士にお願いしている方は一度確認してみることをお勧めします。
自社の申告書は税理士法30条に基づく書面添付で申告されているのか、税理士法33条の2に基づく書面添付で申告されているのかを。
違いは、簡単にいうと
税理士法30条は、出された書類に基づいて申告書を作成しましたということ。
税理士法33条の2は、すべて確認し間違いがないことを確認し、申告書を作成しましたということになります。
つまり税理士の責任範囲が違くなり、より責任を持った第33条の2を添付されている企業は信用があるということになります。
詳しくは書きませんが、税務調査においても違いがでてきます。
気になる方は、税理士法33条の2の書面添付をしない税理士はテキトー税理士と言い切っているこの本を読むことをお勧めします。
テキトーかどうかは置いておいても面白い本で、経営のヒントがあります。
⑥申込金融機関の内部基準等に基づき「適切な財務情報が提供されている」と判断できる
どれにも該当しない場合には、各銀行独自の判断基準を採用します。
保証協会は、適切な財務情報が提供されている」と判断したことを示す申込金融機関の理由説明書により確認します。
財務要件
お金を貸す以上、財務的に経営が安定しているかも判定の指標の1つです。
無担保無保証人要件と有担保無保証人要件では要件が違います。
つまり不動産などの担保があるかないかで要件が違うということになります。
無担保無保証人要件は、①を必ず満たし、②と③のいずれか1つを満たすことが要件です。
有担保無保証人要件は、①〜③のうち1つを満たすことが要件です。
自己資本比率20%以上
以下の計算式によって計算されます。
自己資本比率=純資産の額÷(純資産の額+負債の額)×100
純資産の額=資本の部の額
純資産の額+負債の額=総資産の額=総資本
ともいいます。
使用総資本事業利益率10%以上
あまり聞いたことのない数字ですが、総資本経常利益率に近い数字です。
総資本経常利益率=経常利益÷総資本×100
に対し、
使用総資本事業利益率=(営業利益+受取利息・受取配当金)÷総資本×100
となり、
営業外費用や、受取利息と受取配当金を除く雑収入などの営業外収益は考慮されないこととなります。
インタレスト・ガバレッジ・レーシオ2倍以上
以下の計算式によって計算されます。
インタレスト・ガバレッジ・レーシオ=(営業利益+受取利息・受取配当金)÷(支払利息+割引料)
利息等の何倍の収益を稼ぐかを見ている指標で、企業の格付けにも使われる重要な指標なので覚えておいて損はありません。
→金融機関(銀行)の融資審査の最大のポイント、信用格付けを徹底解剖
→信用格付け対策が重要!信用格付けの企業へのメリットとデメリット
編集後記
金融機関の借入に経営者の連帯保証をつけないことは財務的な経営目標の1つとなります。
いきなりは難しいかもしれませんが、上記の基準を参考に、毎年の数値目標を作っていきましょう。
連帯保証の怖さはあえてここで説明する必要はないと思いますが、会社経営に失敗して家も財産もなくなって自己破産したという経営者もいるくらいですので、ぜひチャレンジしていただけたらと思います。