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起業するときの事業形態として、主に株式会社、合同会社、有限会社、合資会社、合名会社という形態があります。
そして、厳密には会社の形態ではありませんが、個人事業主として起業という方法も一般的で、個人か法人かなどで悩むことも多いのが現実です。

起業するときだけでなく、会社経営をする上でどの会社形態を選ぶかは重要ですので、現在事業をされている方にも参考になるはずです。

(他に一般社団法人、NPO法人、学校法人、宗教法人など多数の法人形態がありますが、今回の記事は上記の法人形態5つと、個人事業主に絞っています。他の形態については次回以降にご紹介したいと思います。)

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【VOL1】起業したら真っ先に見るべき会計の3つの数字

からお読み頂くことをお勧めします。

今回は『起業をするときに知っておきたい会社の種類と特徴』です。(編集前のメルマガは2017年4月19日(水)に配信されています)

会社の種類と主な形態

重要なこととして、経営者の責任の範囲というものがあります。
税金が安くなるから、信用力が増すからという問題以前に、事業の責任が有限なのか、無限なのかというポイントを抑えましょう。

※重要なことにも関わらず軽視される背景には、有限責任の形態をとっているにも関わらず、金融機関からの借入の際には、経営者に個人の連帯保証(無限責任)を求められるからです。
(→個人の連帯保証をしないで借りるための要件:【VOL142】経営者保証に関するガイドラインの目的と要件

結果、有限責任の形態で起業しても結局無限責任のようになってしまうため、後述する個人事業主(無限責任)と株式会社(有限責任)を同じように考えてしまう傾向があります。

有限責任の事業形態

株式会社、有限会社、合同会社が有限責任の事業形態となります。

無限責任の事業形態

個人事業主、合資会社、合名会社が無限責任の事業形態となります。
(合資会社は一部有限責任の者がいることが認められます。但し一人も無限責任のものがいない状態は認められません)

有限責任と無限責任の違い

責任が有限か無限かの違いというのは何となくわかりますが、何の責任に対して有限又は無限と定義されているのでしょうか?

責任は誰がとるものなのか?

責任の範囲が明確化されているのは、社員やアルバイトではありません。
そして、代表取締役を含む取締役や役職上の社長や副社長の話でもありません。
会社形態によって名称が、事業主、株主、出資者、社員などと名前が違いますが、総じて出資をする出資者が持つ責任となります。

中小企業をはじめとした小規模事業者は、出資者と経営者(=代表取締役や社長等)が同じ場合が多いので、経営者が有限責任か無限責任かのように語られますが、厳密には違うということです。

※代表取締役と社長も厳密には違います。
代表取締役を含む取締役は会社法の規定に基づく立場であり会社法の規定に基づく責任を負いますが、会長や社長は、一般的になっていますが、会社の一つの役職でしかありません。
今回の記事では、特段そこの区別をせず、一般的に浸透している意味として両方とも経営者という意味で使っています。

有限責任とは?

有限責任とは、会社の負債に対しての出資者の責任が有限であることをいいます。
例えば500万円を出資したとして、会社を運営していく中で1,000万円の負債を抱えてしまった場合でも、出資者は500万円まで責任を持てば良いこととなります。(つまり、500万円の出資金を諦めれば良いということです)

事業を運営していれば、事故や損害賠償などで大きな負債を背負ってしまうこともありますので、有限責任であることのメリットは非常に大きいといえます。

但し、個人で連帯保証人(又は保証人)になり連帯保証(又は保証)したものについての責任は有限です。
例えば、3人で500万円ずつ出資して作った会社だとして、出資者のうち1人が連帯保証して2,000万円の借入をしたとします。
そこで会社がどうにもならなくなり、倒産したとすると、連帯保証をした1人は2,000万円の借入を返済する義務を負うこととなります。
逆に他の2人は500万円の出資金を諦めれば2,000万円の借入の返済義務は負いません。
(この2人が取締役等になっており、会社法の規定に定める責任の範囲に該当すれば別ですが、不正行為があったなど限定的です。詳しくはまた別の機会に書きます)

借入の連帯保証についてはこちらの記事を。
【VOL142】経営者保証に関するガイドラインの目的と要件
【VOL143】経営者保証に関するガイドラインを活用するためのチェック項目

無限責任とは?

出資者は連帯して事業の債務をすべて返済する義務を負います。
仮に500万ずつ3人が出資して作った法人が、3,000万円の負債を抱えて倒産した場合には、3人の連帯責任として3,000万円を負債の相手方(債権者)に返していかなければいけないこととなります。

現実には、この無限責任の法人である合名会社や合資会社を設立するケースは少なく、日本の企業の99%が有限責任である株式会社や有限会社(今は作れません)、合同会社の形態を選んでいると言われています。

ですので、無限責任で事業をやっている形態は、個人事業主と、税理士法人や社会保険労務士法人、司法書士法人など、一部の特殊法人に限られています。
(税理士事務所や社会保険労務士事務所などは、個人事業主なので当然無限責任です。)

公開資金調達ができるかどうか?

これも大きな特徴の1つですが、公開して資金調達ができるかという点があります。
公開できる会社は、株式譲渡制限をしている株式会社以外の株式会社です。
上場している会社のことではないことにご注意ください。

株式譲渡制限とは、会社に許可なく株の売買をしてはいけませんという規定です。
登記簿謄本を見れば株式譲渡制限がある場合には書いてあります。(もちろん会社定款にも書いてあります)
中小企業の場合には、株式公開して資金調達しようとしている企業以外、一般的には会社を設立する際に、この譲渡制限をしています。
(気になる方は、一度登記簿謄本か定款をご確認ください。)

この株式譲渡制限がない株式会社を公開会社と呼び、それ以外の会社を非公開会社と呼びます。

それ以外の会社とは、株式譲渡制限をしている株式会社、合同会社、有限会社、合名会社、合資会社、個人事業主などです。

公開会社のメリットとデメリット

公開会社のメリットは非公開会社のデメリットであり、公開会社のデメリットは非公開会社のデメリットでもあります。

公開会社のメリット

公開会社のメリットは、株式を会社の承認を得ることなく売買できるため、株式に流動性がでます。
そのため、非公開会社より多くの人が株式を購入しやすくなるため、広く多くの人からお金を集めることができます。

非公開会社のように出資したは良いけど、売りたいときに売れないとなると流動性がなくなり、出資者は減ってしまします。

流動性がもっとも高いのが上場で、株主は株を自由に売買することが可能です。

中小企業でも大きな資金調達をしたくて、ベンチャーキャピタルや投資家などに出資をしてもらいたい企業などは公開会社のほうが、出資側もとても出資しやすくなります。

出資する側もある程度成長して株価があがってきたら他の投資家への売却なども検討できるため、初期段階での投資がしやすいからです。

公開会社のデメリット

メリットの裏返しがデメリットですが、株の売買をとめることができません。
経営者自らが株主総会の特別決議権を持てる3分の2以上の株式を所有していれば問題ありませんが、所有していない場合には会社を乗っ取られるリスクや、会社の方針を決めるのに株主の意向を確認しなければなりません。
(特別決議を例に出しましたが、特別決議が3分の2以上、普通決議が過半数の同意が必要です)

3分の2以上持っていればと思いがちですが、自分が出資できる金額の2分の1の金額しか資金調達できないのであれば、公開している意味は半減してしまいます。

公開して株価があがり、いずれ売却して創業者利益を狙うや、会社が誰のものになろうとも資金調達をして急成長させるなどの目的がないとあまり公開する意味はなくなります。

法人格とは何か?

法人格とは、本来人ではないものに法で人と同等の権利や義務を与えたものをいいます。
具体的には、法人の名前で契約を結んだり、納税をしたり、罰則を受けたり、する権利や義務のことをいいます。

上記、株式会社、合同会社、有限会社、合資会社、合名会社はすべて法人格を持つ団体となります。
個人事業主は法人格を持たず事業主本人(法人に対して自然人と呼ぶ)の名前において上記のことを行います。
また組合の中には、有限責任事業組合(LLP)など法人格を持たない団体も多数存在するので注意が必要です。

各事業形態毎の特徴

株式会社、合同会社、有限会社、合資会社、合名会社の特徴と個人事業主について個々にあげていきます。

株式会社とは?

広く一般に知られた会社形態で、上場企業のすべてが株式会社です。
本来の目的は公開し、広く出資者を募り、資金調達をすることを目的としていましたが、2006年5月に会社法が施行されたことにより、現在では小規模〜大規模までのすべての法人で活用されています。

会社法の施行により、最低資本金が1,000万円から1円に変更になったり、有限会社が設立できなったりと大きく株式会社の在り方が方向転換されたためです。

最低資本金

なし(以前は1,000万円)

責任の範囲

有限責任

公開の有無

原則、公開会社。
定款に株式譲渡制限を定め登記することで非公開会社とすることもできる。

出資者の名称

株主

出資者の最低人数

1名以上

最高意思決定機関

株主総会

経営主体

取締役または取締役会

取締役の人数

原則は3名以上
但し、株式譲渡制限会社は1名でも可能
取締役会設置会社の場合は株式譲渡制限に関係なく3名以上

監査役の人数

原則は1名以上
但し、株式譲渡制限会社は0人でも可能

設立費用

約25万
(第三者に頼んだ場合の手数料は除く)

合同会社

合同会社はアメリカのLLCという制度を真似た制度と言われており、有限責任で、かつ、法規制も組合のような自治制を尊重しており緩いものとなっています。
また、アメリカのLLCでは、パススルー課税と言われる、LLCでどんなに利益を出しても課税せず、個人に分配したら課税するという制度の導入も併せてされるという予想もあって注目されていました。

しかし、現実にはパススルー課税は見送られ、小規模事業を行う経営者にとっては、設立費用が安いくらいで特段メリットがない会社形態となっています。

一般に後述する合資会社、合名会社とあわせ持ち分会社と呼ばれ、出資比率に関係なく利益分配を行えたり、定款変更の決議なども出資比率による多数決ではなく社員(出資者)のすべての合意が必要とされています。

最低資本金

なし

責任の範囲

有限責任

公開の有無

非公開

出資者の名称

社員

出資者の最低人数

1名以上

最高意思決定機関

社員総会

経営主体

義業務執行社員

設立費用

約10万
(第三者に頼んだ場合の手数料は除く)

株式会社への組織変更

可能

合資会社とは?

昔は株式会社を設立するのに資本金が1,000万円以上、有限会社を設立するのに資本金が300万円以上、必要だったので小資本で設立でき、かつ、1部の出資者を有限責任にできるため利用されていました。
しかし、株式会社の最低資本金額が撤廃され1円からでも設立できることとなったため、今後の設立はほぼないと見られています。

最低資本金

なし

責任の範囲

有限責任社員と無限責任社員の両方がいる

公開の有無

非公開

出資者の名称

社員

出資者の最低人数

2名以上

最高意思決定機関

社員総会

経営主体

義業務執行社員

設立費用

約10万
(第三者に頼んだ場合の手数料は除く)

株式会社への組織変更

可能

合名会社とは?

合資会社と同様に小資本で設立できる形態ですが、法人格を持てること以外は個人事業主とほぼ変わらず、出資者はすべて無限責任社員となることから、今までもこれからも設立されることは少ないとされています。

最低資本金

なし

責任の範囲

有限責任社員と無限責任社員の両方がいる

公開の有無

非公開

出資者の名称

社員

出資者の最低人数

2名以上

最高意思決定機関

社員総会

経営主体

義業務執行社員

設立費用

約10万
(第三者に頼んだ場合の手数料は除く)

株式会社への組織変更

可能

個人事業主とは?

上記の5つとの大きな違いは、法人格を持たないことです。
また、法人ではないことから課税される税金は所得税になり、自分から自分へという同一の人物にお給料を払うという行為ができないため役員報酬などの賃金を自らに払うことができません。
(法人は法人が個人にお給料を払うので認められています。)

上記のような問題から、常に法人にしたほうが税金が得か否かという話題が生まれています。

有限会社とは?

2006年5月の会社法施行に伴い新たには設立できなくなった法人の形態です。
以前は株式会社は資本金1,000万円〜しか設立できなかったので、小規模事業者は出資金300万円〜で良い有限会社を利用していました。
株式の公開はできないですが、役員の人数も1名から可能で、1,000万円の出資金は用意できないが法人化したいという事業者が利用していました。

株式会社の資本金の規定がなくなったことにより、新規設立は不可となりましたが、今でも有限会社の会社は最低でも2006年から続く歴史のある会社で、最低の資本金300万円を用意できた会社ということです。
資本金1円で設立した株式会社よりも信用できるという見方をする人もいるくらいです。

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編集後記

実は、私が経営している会社の1つは合同会社です。
目新しさと設立費用の安さに惹かれ、主にコンサルティング業務をやる会社だったので、最初は個人の名前でお客様が頼んで下さると思っていたので、合同会社を選んでみました。

現実にお客様の中にも、うちの会社の名前を知らない人もいますし、不便を感じたことはありません。

しかし、やはり株式会社が持つ信頼感は抜群です。(実態は変わらないにも関わらず)

今回、事業形態について書きましたが、株式会社か個人事業主かの2択というのが現実的です。

税金の面もそうですし、新規取引先を開拓する上での信頼や信用、雇用をするときの安心感など、個人と法人ではメリット・デメリットがそれぞれあり、比較しての総合判断になると思いますが、合同会社や合資会社、合名会社を株式会社に変わってあえて選択するメリットはほとんどありません。(合同会社の設立費用が安いくらいでしょうか?)

やはり一番気になるのは個人と法人を選ぶ際のメリットとデメリットという方が多いです。
このサイトでもまとめて記事にしていきます。

最後に

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