倒産防止共済という言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?
取引先が倒産した時にはもちろん、それ以外にも事業経営をしていく上で活用しやすい制度の1つがこの倒産防止共済です。
資金繰りに困る前から準備をしておく必要がある制度ですので、常に視野に入れておきましょう。
【VOL130】資金繰り改善の方法:テクニック編Part1〜科目別
【VOL131】資金繰り改善の方法:テクニック編Part2〜支払順序
【VOL132】資金繰り改善の方法:テクニック編Part3〜ファクタリング
【VOL133】資金繰り改善の方法:テクニック編Part4〜リースバック
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今回は『資金繰り改善:倒産防止共済のメリットを徹底解説』です。(編集前のメルマガは2016年11月30日(水)に配信されています)
この記事の目次
中小企業倒産防止共済とは?
正式名称を中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)といい、取引先の倒産などによる連鎖倒産などを防ぐために創設された制度です。
倒産防止共済の加入資格
1年以上事業を継続して行っている中小企業。
ここでの中小企業の定義は、資本金(出資金)の額と常時使用する従業員数のいずれかが下記に該当する事業者をいいます。
個人事業主は、資本金(出資金)の額がないので、無条件で要件を満たしていることとなります。
製造業、建設業、運輸業その他の業種
資本金(出資金)の額・・・・3億円以下
常時使用する従業員数・・300人以下
卸売業
資本金(出資金)の額・・・・1億円以下
常時使用する従業員数・・100人以下
サービス業
資本金(出資金)の額・・・・5,000万円以下
常時使用する従業員数・・100人以下
小売業
資本金(出資金)の額・・・・5,000万円以下
常時使用する従業員数・・50人以下
ゴム製品製造業
資本金(出資金)の額・・・・3億円以下
常時使用する従業員数・・900人以下
※自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く)
ソフトウェア業または情報処理サービス業
資本金(出資金)の額・・・・3億円以下
常時使用する従業員数・・300人以下
旅館業
資本金(出資金)の額・・・・5,000万円以下
常時使用する従業員数・・200人以下
その他
・個人事業主、企業組合、協業組合
・共同生産、共同販売の共同事業を行っている事業組合、事業共同小組合、商工組合
は加入できます。
加入できない事業
上記に記載のない事業は加入できません。
例えば、医療法人、農事組合法人、NPO法人、森林組合、農業共同組合、外国法人などは加入不可です。
制度の概要
掛け金を月額5,000円〜20万円の範囲で5,000円毎を区切りに納付金額を決められます。
(5,000円、1万円、1万5,000円・・・という具合です。)
月払いはもちろん、年一括払いも可能です。
月払いも年払いも口座引き落としでの納付となります。
最大掛け金額が800万円になるまで納付が可能です。
800万円に達すると自動的に引き落としが止まり、通知がきます。
※以前は最大月額7万円までで、500円毎を区切りに納付金額を決められていましたが、現在は上記に変更されていますので、お間違いのないように。(今でも古い情報のサイトがWEB上にはありますので。)
中小企業倒産防止共済の4つのメリット
中小企業倒産防止共済を活用するメリットは大きく以下の4つになります。
取引先が倒産し、売掛金回収が困難な場合の貸付制度
1番目は、中小企業倒産防止共済の存在目的でもある、倒産時の貸し付け制度です。
6ヶ月以上、中小企業倒産防止共済に加入していることが条件となります。
取引先が倒産し、債権の回収が困難であると認めれるときには、
・これまで積み立てた金額×10倍
・取引先の回収不能債権
のいずれか少ないほうの額まで、借入をすることができます。
これにより、取引先の倒産により当てにしていたお金が入金せず、支払いができないという事態を防ぐことができます。
取引先の倒産とは?
但し、実務上で運用が難しいのが、この倒産の事実という部分です。
中小企業倒産防止共済では、「倒産の事実」を以下のように取り扱っています。
・破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始、または特別清算開始の申し立てがされている
・金融機関の(銀行)取引停止処分を受けている(→半年間に2回の不渡り手形を出すとなります)
・債権整理、代表者の死亡、その他の事由により、弁護士から支払い停止通知がなされるなど
などです。
しかし、現実には上記のことが起こる前に、支払いが遅延したりストップしたりするのが現実です。
最後まで実質的な「倒産」は避けようとするのが普通ですから、上記が認められるころには、もう何ヶ月もの支払いがされていないのが普通です。
そこで2つ目のメリットが生きてきます。
一時貸付制度
一次貸付制度とは、取引先が倒産していなくても借入ができる制度です。
借入事由は問わないため、業績悪化はもちろん、上記の倒産に該当していない取引先からの入金が遅延した場合でも掛け金の範囲でお金を借りることができます。
借入限度額
掛け金の納付月数に応じて、以下の通りになります。
1ヶ月〜11ヶ月・・・・0円
12ヶ月〜23ヶ月・・・・・・・掛金総額×75%×95%
24ヶ月〜29ヶ月・・・・・・・掛金総額×80%×95%
30ヶ月〜35ヶ月・・・・・・・掛金総額×85%×95%
36ヶ月〜39ヶ月・・・・・・・掛金総額×90%×95%
40ヶ月以上・・・・・・・・・・・掛金総額×95%×95%
掛金総額800万円以上・・800万円×100%×95%=760万円
借入は30万円以上から5万円刻みで選ぶことができます。
※平成23年9月末時点で既に320万円の掛け金をかけていた場合で、掛金総額が引き続き320万円あり、月額掛け金を8万5千円以上に増額していない場合には、貸付限度額は300万円となります。(旧制度の継続が適用になります。)
返済期間・利息・担保&保証人
返済期間:1年
利息:変動、一括前払(平成23年4月1日以降〜現在は、0.9%になっています。)
無担保、無保証人
一次貸付制度があることで、取引先が倒産していなくても、いざという時のセーフティーネットとして使うことができます。
そもそも、自分が掛けた金額の一部しか借りれないのであれば、中小企業倒産防止共済に入らず、積立で毎月貯金しておけばという考えもありますが、次に3番目のメリットにより、中小企業倒産防止共済に入っていたほうがメリットがあることとなります。
中小企業倒産防止共済の掛金は全額損金
中小企業倒産防止共済の掛金は100%が損金になるため、節税に効果的です。
最大で年間240万円(20万円×12ヶ月)の掛け金を掛けられるので、240万円×法人税実効税率が節税になります。
2番目のメリットである一次貸付制度と次にあげる4番目のメリットを組み合わせることで、節税をしながら、効率的にお金を貯めることが可能です。
例えばですが、法人の場合、法人税の実効税率を30%とすると、
240万円×30%=72万円の納税が必要となり、240万円-72万円=168万円しかお金が残りません。
しかし、240万円全額を中京企業倒産防止共済の掛け金にすると、240万円に対する利益がゼロになり、税金も0円となります。
240万円というのは、20万円×12ヶ月ですから、12ヶ月以上掛金を納付したことになりますので、一次貸付制度で、171万円を借りることが可能となります。(240万円×75%×95%=171万円)
利息はかかりますが、期間が長くなれば長くなるほど、一次貸付制度で借りられる金額の割合は高くなります。
最大800万円で考えると、800万円×30%=240万円の税金がかかり800万円-240万円=560万円しか手元に残らないところを、一次貸付制度で760万円借りられることとなります。
更に、この一次貸付制度は資金繰りに困ったときの保険として考えれば、いざというとき以外には使わないでしょうから、4番目のメリットが生きてくることとなります。
※実際に節税を検討して中小企業倒産防止共済を活用する場合には、専門家へご相談ください。
上記はあくまでも一般的な範囲での話です。
解約時の解約手当金は最大100%
解約手当金とは、生命保険でいうところの解約返戻金です。
→もう損はしない!中小企業の生命保険の活用法と3つの目的を抑えて保険の有効活用!
生命保険の解約返戻率が高くて80%前後ということを考えると、最大100%というのは非常に効率の良い仕組みだということがわかります。
また、何ヶ月かけたら何%戻ってくるかという比率は通常早ければ早いほうがよく(これを立ち上がりと呼びます)、更には何年間高いパーセンテージを維持できるかというのが生命保険ではポイントの1つになりますが、倒産防止共済は12ヶ月で80%の返戻率になり、その後は上がることはあっても下がることは基本ありません。(下記参照)
生命保険の立ち上がりが3年で一般的には早いと言われていて、また長く掛けると返戻率が下がっていくことを考えるとこの点でも効率が非常に良いといえます。(生命保険は期間が長くなると亡くなる可能性が高くなるので返戻率が下がります。)
つまり800万円かけていれば、最大で800万円返ってくることになります。
うまく活用すれば、800万円貯まるまで節税し、800万円貯まったときに解約し、800万円経費として使えば税金はかからないことになりますから、800万円を効率的に貯められることとなります。
注意点は、解約時には解約金は利益となりますので、そのまま放っておくと解約金に税金がかかります。
3つの解約方法と返戻率
最大100%ですが、解約方法と解約までの期間によって解約手当金の率が変わります。
任意解約
事業者が事業者の都合でいつでも解約できる方法です。
1ヶ月〜11ヶ月・・・・0%
12ヶ月〜23ヶ月・・・80%
24ヶ月〜29ヶ月・・・85%
30ヶ月〜35ヶ月・・・90%
36ヶ月〜39ヶ月・・・95%
40ヶ月以上・・・・・・・100%
みなし解約
個人事業主の死亡、法人の解散、分割などにより、解約とみなされるものに適用されます。
但し、中小企業倒産防止共済の承継が行われたときは解約とみなされません。
1ヶ月〜11ヶ月・・・・0%
12ヶ月〜23ヶ月・・・85%
24ヶ月〜29ヶ月・・・90%
30ヶ月〜35ヶ月・・・95%
36ヶ月〜39ヶ月・・・100%
40ヶ月以上・・・・・・・100%
機構解約
12ヶ月以上掛け金の納付が滞った場合や不正行為が発覚した場合に、中小機構側が行う解約です。
1ヶ月〜11ヶ月・・・・0%
12ヶ月〜23ヶ月・・・75%
24ヶ月〜29ヶ月・・・80%
30ヶ月〜35ヶ月・・・85%
36ヶ月〜39ヶ月・・・90%
40ヶ月以上・・・・・・・95%
中小企業倒産防止共済の注意点
倒産の定義と掛金の支払期間に注意しましょう。
倒産の定義に注意
倒産の定義が法的にしっかりとしたものなので、例えば取引先が夜逃げして支払がないなどでは対象にならないので注意しましょう。
倒産が確定していない段階で、掛け金以上の債権が入金しなかった場合には、解約や一時貸付制度では対応できないので、中小企業倒産防止共済に入っているから安心ということではありません。
また、一時貸付制度や解約で対応するのか、金融機関からの借入を含めた他の資金調達や資金繰り方法で対応するのか、メリットデメリットが個々の事情によって違うので、専門家に相談しながら最善の方法をとることをお勧めします。
支払期間に注意
少なくとも12ヶ月以上掛けなければ掛け金を丸々失うことになってしまい、税金を払ったほうが得ということになってしまいます。
また、いくら全額が経費なるとはいえ、元々赤字の事業や繰越欠損金のある事業にとって本当にメリットがあるのかどうかは、個々の事情によるところが大きいので、よく専門家と相談して決めることをお勧めします。
無理して入って、掛け金の支払いがキツくて資金繰りが詰まるようなことがあると本末転倒です。
編集後記
中小企業倒産防止共済についてご説明しました。
(参考:中小企業機構倒産防止共済ページ)
売掛金がないような事業でも加入できるのもメリットの1つです。
いざというときの保険に加えて、将来の資金を貯める目的など、活用の仕方はやり方次第で多岐にわたります。
倒産防止共済と小規模企業共済は利用価値の高い制度ですので、ぜひ活用してもらいたいと思います。