資金繰り改善の方法の第2回目は投資の考え方についてです。
ここがもっとも混乱を招くところで、これが難しいからこそ「財務戦略」などというものが必要となります。
経営を財務で捉えれば、資金をいかに調達し、いかに効率よく投資し、利益を回収するかになります。
今回は、この特に資金繰りを悪化させる最大の原因になっている資金調達と投資のバランスについて、ご紹介します。
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今回は『資金繰り改善の方法:投資の考え方=財務戦略』です。(編集前のメルマガは2016年10月19日(木)に配信されています)
この記事の目次
会計をわかりずらくしている減価償却費と税金
会計がなぜ難しいのか?
実は、会計は足し算、引き算、かけ算、割り算の四則計算しか使用しません。
にも関わらず難しいイメージがあります。
単純にもらったお金が収入、払ったお金が経費になり、収入ー経費=利益、その利益に税金がかかるのであれば難しくありません。
数字!と聞いただけで拒否反応を示す方はともかく、こんな単純であれば何も困ることはありません。
ここにお金を払ったのに経費にならないものがあるので、複雑になります。(お金をもらったのに、収入にならないものもありますが、お金を払ったのに経費にならないもののほうが複雑にしているので、割愛します。)
代表的なものが、土地や建物、機械、備品などの減価償却資産があります。
例えば身近なもので10万円以上のパソコン。(中小企業の特例で30万未満の減価償却資産は支払った時の経費にできる特例の適用を受けられる会社もありますが、ここでは10万円を使用)
考え方としては、パソコンはその年だけでなく何年も使えるものなんだから、その時の経費にするのではなく使える期間に按分して経費にしなさいという考え方です。
もちろん10万円未満のものでも何年も使えるものもありますが、10万円未満のものは大きな誤差を生まないので支払ったときの経費になります=会計原則の重要性の原則(中小企業の場合は30万円未満)
パソコンを使える期間は、パソコンをどれだけ使うかにもよるので、何年使えるかは個々に違う部分もあるのですが、何年かを勝手に事業者が決めれると、1年しか使えないので経費にします、でも実は3年使ってますという人も、その逆も出てきてしまうので、税法で何年使えるものとして、その期間で経費にしなさいという法定耐用年数というのが決まっています。
例えばパソコンであれば4年です。
償却方法には定額法と定率法というのがありますが、ここでは簡単な定額法を例に出します。
10万円のパソコンであれば4年で経費にしなさいという話ですので、2.5万円/1年が経費になります。
これが10万円程度であれば、ほとんど影響がありませんが、100万円、1,000万円となってくると資金繰りに大きな影響を与えます。
例えば売上が年間5000万円、経費が年間4,500万円かかり、年間500万円の利益がでる会社が、400万円の資産を買って5年償却だとしたら、80万円しか経費になりません。
利益500万円ー資産購入費400万円=100万円しかお金が増えてないにも関わらず、
利益500万円ー減価償却費80万円(400万円÷5年)=420万円の利益が出ることになるので、地方税なども含めた法人税の実行税率が40%と仮定すると(中小企業は30%程度の場合が多いですが)
420万円×40%=168万円の納税となります。
100万円しかお金が増えていないのに、168万円の納税が必要になるということは、資金は▲68万円となってしまいます。
ここに利益は出ているのにお金が残らないとか、損益計算書は当てにならないとか、会計は難しいという原因があります。
→【VOL2】減価償却費に代表される会計の罠にひっかからないように気をつけましょう!(メルマガ版財務講座)
投資と借入のバランス
上記のように利益がでているのにお金が足らないという資金繰り難に陥らないためにも、大きな投資をする際には借入が有効な手段となります。
「借入=悪、無借金経営=良い」という考え方もありますが、借入ができることは信用ですし、事業経営において借入は有効な手段の1つです。
上記の例でいけば、400万円、減価償却年数5年の資産を買うのに、金融機関から5年の返済期間で400万円を借りれば、
利益500万円ー資産購入費400万円+借入400万円ー借入返済80万円(400万円÷5年)=420万円の資金が増加します。
利益500万円ー減価償却費80万円(400万円÷5年)=同じく420万円の利益(支払利息は割愛)
420万円×40%=168万円の納税となります。
420万円の資金が増え、168万円の納税ですから、252万円の資金増加となり、資金繰りに困ることはありません。
投資をする際に気をつけること
上記のように同じ投資をするのであっても、資金調達をするのかしないのか、法定耐用年数は何年なのかなどによって会社の財務状況は大きく変わってしまいます。
つまり財務戦略の善し悪しによって、資金繰り、ひいては経営は良くも悪くもなってしまうのです。
投資するものの使用可能年数
法定耐用年数はあくまでも国が税法で一律に決めたものであって、実際には使用用途、業種などによってまったく違います。
実際にその投資した資産が何年使えるのかを見積もることから始めることが大事です。
ここでいう使えるというのは、収益を生み続けられるかという意味です。
例えば飲食店の店舗などは、内装設備は法定耐用年数で5年程度ですが、5年間収益を生み続けるのは難しく改装などが必要となります。
2年で改装が必要であれば最低でも2年で改装費を稼ぎださなければいけません。
→【VOL93】借入をすると事業の成長は加速する??借入を上手に利用して効率的な経営を。
借入期間は法定耐用年数以上か?
上記の飲食店で、法定耐用年数が5年であれば5年以上で借りることが理想です。
先ほどの話の応用ですが、500万の内装費がかかったとすれば、500万円÷5年=年間100万円が経費となります。
この500万円を5年で金融機関から借りることができれば、年間返済額は100万円となり減価償却費とバランスします。
これが、法定耐用年数>借入期間だと資金繰りは厳しくなります。
法定耐用年数<借入期間だと勘違いが起こりやすくなります。
事例で説明して行きます。
法定耐用年数=借入期間の場合
仮に売上500万円、経費350万円の飲食店で、内装工事500万円で法定耐用年数5年、借入500万で期間5年とします。
1年目
資金繰り:売上500万円-経費350万円=利益150万円ー内装費500万円+借入500万円ー借入返済100万円=+50万円
損益:売上500万円-経費350万円-減価償却費100万円=利益50万円
税金:利益50万円×40%=20万円
最終:50万円ーTAC20万円=30万円
2年目以降
資金繰り:売上500万円-経費350万円=利益150万円ー借入返済100万円=+50万円
損益:売上500万円-経費350万円-減価償却費100万円=利益50万円
税金:利益50万円×40%=20万円
最終:50万円ーTAC20万円=30万円
となり、30万円ずつお金が増えていき、30万円×5年=150万円が手元に残ります。
理論上、資金繰りには困りません。
法定耐用年数>借入期間
仮に売上500万円、経費350万円の飲食店で、内装工事500万円で法定耐用年数5年、借入500万で期間2年とします。
1年目
資金繰り:売上500万円-経費350万円=利益150万円ー内装費500万円+借入500万円ー借入返済250万円=▲100万円
損益:売上500万円-経費350万円-減価償却費100万円=利益50万円
税金:利益50万円×40%=20万円
最終:▲100万円ーTAC20万円=▲120万円
2年目
資金繰り:売上500万円-経費350万円=利益150万円ー借入返済250万円=▲100万円
損益:売上500万円-経費350万円-減価償却費100万円=利益50万円
税金:利益50万円×40%=20万円
最終:▲100万円ーTAC20万円=▲120万円
3年目以降
3年目移行は返済がなくなりますので、
資金繰り:売上500万円-経費350万円=利益150万円=150万円
損益:売上500万円-経費350万円-減価償却費100万円=利益50万円
税金:利益50万円×40%=20万円
最終:150万円ーTAC20万円=130万円
結果、▲120万円×2年+130万円×3年=150万円となり、
5年通年で増えるお金は最初の例と変わりませんが、1年目、2年目で通算▲240万円のお金が減ることになるので、資金繰りは最初の例より厳しくなります。
法定耐用年数<借入期間
仮に売上500万円、経費350万円の飲食店で、内装工事500万円で法定耐用年数5年、借入500万で期間10年とします。
1年目
資金繰り:売上500万円-経費350万円=利益150万円ー内装費500万円+借入500万円ー借入返済50万円=100万円
損益:売上500万円-経費350万円-減価償却費100万円=利益50万円
税金:利益50万円×40%=20万円
最終:100万円ーTAC20万円=80万円
2年目〜5年目
資金繰り:売上500万円-経費350万円=利益150万円ー借入返済250万円=100万円
損益:売上500万円-経費350万円-減価償却費100万円=利益50万円
税金:利益50万円×40%=20万円
最終:100万円ーTAC20万円=80万円
結果、5年で、80万円×5年=400万円のお金が増えます。
良いことですし、理論的には返済を遅くし、回収を早くして再投資をして、更に事業の効率をあげていくことが理想なのですが、お金が増えていることにより錯覚を生みやすくなります。
前2例では借入の返済が終わっているのに対して、この例はこの後5年借入が続くことを忘れてはいけません。
借入金は麻薬である
【VOL93】借入をすると事業の成長は加速する??借入を上手に利用して効率的な経営を。でも紹介しましたが、借入は基本的には事業を加速、効率化するために活用することをお勧めする手段です。
しかし、投資が1つであれば混乱することもないのですが、事業は常に複数のことが平行して行われています。
例えば、ある事業では黒字、ある事業では赤字、借入を本来の目的ではなく赤字の事業の穴埋めに使ってしまったということも良くある話です。
お金には色がついていないので、この紙幣は借入分、この紙幣は利益分、この紙幣は預かっているお金・・・などということはわかりません。
そのうち、どの投資に対応した借入かわからなくなり、気づいたときには借入の返済をするために事業をやっているのではないか?というような状況に陥ります。
借入は事業を効率化するため、そして資金繰りを円滑にするために活用するものであり、依存するものではありません。
どの借入がどの投資に対応するもので、どの程度回収できているのかをキチンと管理して行くことが必要となります。
でないと、借入依存体質の会社となり、資金繰りはもちろん、会社の財務体質を改善するのに苦労することになります。
借入金は利益の前倒しである
本来であれば、毎年税金を払って500万円貯めるから、500万円を投資できるわけです。
が、借入を利用すれば、その過程をスキップして500万円を手にすることができます。
しかし、それはあくまでも将来500万円の税引き後利益(+減価償却費)を稼ぎ返すことが前提です。
貯めて資産を購入するのが、過去の利益の蓄積であれば、借入は将来の利益の前倒しです。
借入をする際は、例えば500万円を5年で借りるのであれば、5年間で500万円の税引き後利益(+減価償却費)を稼げることが大前提となります。
言われてみれば当たり前の話しかもしれませんが、借りるときになると現実を無視した夢物語のような利益がでるような計画を立ててしまうことが少なくありません。
また、目の前の資金繰りに困ったときには、将来の利益で返すことなど忘れたかのように、借入を起こしてしまうものです。
適切かどうかは別として、前述した「麻薬」という表現ですが、それがまさにこの状態です。
無借金経営をしていれば、資金繰りに困っても売上を増やすことで7割は解決できます。
借入は事業を加速させ資金繰りを円滑にする方法ではありますが、将来の利益で返済するという大前提を忘れると、非常に深刻な事態を招きます。
お金を借りて投資してしまったら、やっぱ辞めたというわけにはいかないので、妄想のような利益がでなくても返済は現実にやってくるからです。
結果、返済するために借入をし、その借入を返済するために働き、それでも足りず借入をし・・・という泥沼に陥ります。
財務畑出身の経営者以外は、財務戦略は誰かに任せ、実際にその事業にいくら投資していくらを何年で回収できるかという、経営者本来の仕事をキチンとやるべきです。
たまに、予測してもその通りにいかないから無駄だという人もいますが、この予測能力が現実といかに近いかこそが経営者に必要な能力の1つです。
それさえ確かなら財務戦略は税理士のような専門家でもできます。
(財務コンサル業務が業務内容にある税理士がこれをできなかったら・・・論外かと思います)
経験則からも儲かっている会社の経営者ほど、予測と実績が近似値でした。
予測は、自身の経済や市場の流れが現実とどのくらい違うかを量るためにつくるものです。
訓練をすればできるようになります。
最初から諦めるのではなく、差が縮まるように挑戦してみることをお勧めします。
編集後記
在庫が増えた、売掛金が増えた、だから資金繰りがキツイ・・・というのは成長中の企業には良くある話です。
しかし、根本的な問題ではありません。
前回ご紹介したように利益がでていない、売上が増えないというほうが企業としては大きな問題です。
そしてその次に資金繰りに困る理由は、借入金過多、つまり返済過多です。
そのほとんどが計画性のない借入が原因です。
投資と借入のバランス、借入の減資は将来の利益だということがわかっていれば、ある程度は防げる話です。
資金繰りに困っている会社のほとんどが売上不足=マーケティング、ビジネスモデル作りへの無計画か、財務戦略(投資と調達)への知識不足です。
→【VOL122】中小企業の経営に最低限必要なマーケティングの基礎
→【VOL123】マーケティングを最大限に活かすための消費者心理の基礎と代表例5つ
→【VOL124】マーケティングより大切なビジネスモデルの作り方
だからと言ってすべてを経営者がする必要はありません。
以前、【VOL117】中小企業の経営に必要な4つの役割を徹底解剖でも書きましたが、この4つの役割を社内のみでなく専門家を使ってでもうまく得意分野、苦手分野で分担して行くことこそ経営の理想です。
そのために専門家がいるわけですから・・・