2回にわたってポーターの競争戦略を基本に中小企業の差別化について書いてきました。
競争戦略を決定するには
①個々の会社同士の関係・行動
②業界構造のあり方
③業界に作用する外からの圧力の
3つの要因があり、
特に重要な業界構造のあり方の分析には、
①新規参入業者
②競争業者
③買い手
④売り手
⑤代替品
という5つの要素から分析する「ファイブフォース分析」という手法を紹介しました。
今回は、前回までの分析結果を基に、差別化のために取る戦略について競争戦略に基づいて紹介します。
前回までの記事
→【VOL146】ポーターの競争戦略に学ぶ中小企業の差別化:参入障壁編
→http://kigyo-jyuku.asia/2003/zaimu-merumaga148-fiveforce/
今回の内容は、メルマガ版財務講座「実践型!経営者向け財務講座 ~財務に強い経営者が見ている数字のポイント~」で配信している内容です。
メルマガの登録はこちらからお願いします。→http://mail.os7.biz/m/KhOi
このメルマガはシリーズものになっていますので、
からお読み頂くことをお勧めします。
今回は『ポーターの競争戦略に学ぶ中小企業の差別化:3つの基本戦略』です。(編集前のメルマガは2017年8月10日(木)に配信されています)
この記事の目次
ポーターの3つの基本戦略とは?
①コストのリーダーシップ戦略
②差別化戦略
③集中戦略
の3つをポーターは提唱しています。
ファイブフォース分析をすると様々な競争要因が見えてきます。
しかし、すべての要因を考えて戦略を決定することは困難です。
すべての要因に等しく力を注いでいては、費用対効果に乏しく十分な成果がでる可能性は低くなります。
最大の競争の要因になる「第一決定要因」を暴き出し、それを見据えた競争戦略を立てることがポイントです。
そして、複雑な選択をするように見える競争戦略も基本的には上記の3つしかありません。
更に、この競争戦略は複数選択し良いとこ取りをするのではなく、1つに絞らなければいけないとポーターは説いています。
まずは基本戦略を1つずつ確認していきましょう。
コストのリーダーシップ戦略
コストのリーサーシップとは、いわゆる安売りです。
規模の経済を活かした低コストを実現し、低価格販売を行う戦略をコストのリーダーシップといいます。
一般に言われる、安売りは悪という話と違うのは、まず低コストの実現が先にあることです。
製造や販売コストを低くできないにも関わらず販売価格だけを安くする安売りとは全く違うので注意が必要です。
コストの最小化は言葉でいうのは簡単ですが、実際に実現するのは非常に厳しいものです。
しかし、厳しいからこそメリットもあります。
コストのリーダーシップをとるメリットには以下のようなものがあるとポーター教授『競争の戦略』入門 には書かれてます。
①業界内に競争要因が現れても平均以上の収益性を維持できるメリット
②買い手の値引き攻勢を交わすことができるメリット
③原材料のコストが増えても臨機応変に対応できるメリット
④代替製品に対し、同業者よりも有利になれるというメリット
⑤参入の障壁をより高くするというメリット
このようにファイブフォース分析の5つの要因すべてにおいて優位に立つことができます。
但し、規模の経済を活かした大量仕入れやセントラルキッチン方式はもちろん、コスト削減のために大胆な設備投資などが必要になるため、市場のシェアをある程度持ち、資金力のある企業しか選択できない戦略となります。
差別化戦略
商品やサービスを差別化しブランド化する戦略です。
わかりやすい例ではグッチやプラダなどの高級ブランドになります。
もちろんブランド名を差別化するだけではありません。
ポーター教授『競争の戦略』入門 では、
①製品設計の差別化
②ブランドイメージの差別化
③テクノロジーの差別化
④製品特長の差別化
⑤顧客サービスの差別化
⑥ネットワーク(流通)の差別化
をポーターが指摘する差別化として挙げています。
差別化の先には、ロイヤルカスタマーの創出があり、高くても売れる状態をつくることが目的です。
そして、特異性を創り出すことで、ファイブフォース分析で出てきた5つの脅威に対して優位に立つことができます。
コストのリーダーシップ戦略と差別化戦略の事例
コストのリーダーシップと差別化は、マクドナルドとモス・バーガーを例に説明されることが多くあります。
マクドナルドはコストを極力安くし販売価格も下げることで業界を牽引しています。
他のお店が真似しようとしても店舗数やセントラルキッチンの存在、そして徹底されたオペレーションマニュアルなどの存在によって、マクドナルド以上にコストを削減することはかなり難しいこととなります。
結果、コストをマクドナルドがどこよりも安く作れるのであれば、他の競合が安売りをしてきてもマクドナルドより原価が高い以上、同じ価格で売れば当然マクドナルドが利益がでることになるので、長期的な競争にも勝ち抜くことができます。
一方のモス・バーガーは差別化戦略です。
コストでマクドナルドには勝つのは難しいので、商品の差別化をしています。
コストのリーダーシップをする上で、たくさんの商品構成は原価をあげる要因になるため取り組みづらいですが、それを逆手にモス・バーガーでは商品構成が豊富になっています。
何より、「健康に良い・美味しい」という地位をハンバーガー業界で築いています。
結果、モス・バーガーファンができ、ロイヤルカスタマーになります。
ロイヤルカスタマーは滅多なことでお店を変えませんので、競合に対する競争有利な条件となります。
集中戦略
特定の客層や地域に集中する戦略を集中戦略といいます。
差別化戦略と集中戦略を同じように絞り込みのように表現することもありますが、ポーターの競争戦略では違うものとして定義されています。
集中戦略と差別化戦略及びコスト・リーダーシップには、市場を絞っている「集中戦略」と業界全体を対象としている「差別化戦略」及び「コスト・リーダーシップ」とで大きな違いがあります。
集中戦略は、「コスト・リーダーシップ」や「差別化戦略」に比べて投資が少なくて済む反面、成功した時のリターンも少なくなります。
また、選んだ市場が外れだったというリスクが常にあります。
具体的には全くお客様がいない市場や、誰も買い手がいない商品などがあります。
戦略の集中の仕方
冒頭にも申し上げたとおり、この3つの戦略はいいところだけ融合して・・・ということはできず、どれか1つを選ぶことが大事だとポーターは説いています。
どの戦略をとるかは以下の考え方を参考にしましょう。
市場シェアが高い企業
コスト・リーダーシップを取ると有利とされています。
業界の市場シェアをとっているため、あえて集中戦略や差別化で絞っていく必要がないからです。
中小企業が生き残るべき戦略
業界全体に影響力を持たせるためのコスト・リーダーシップも差別化戦略も莫大な費用がかかります。
中小企業にはその体力はありません。
結果的にセグメントを絞る集中戦略が一番効果を発揮します。
上記以外の中企業
3つの戦略すべてを狙うことができます。
この場合でも大切なのは1つに戦略を絞ることです。
中途半端にどの戦略にも手を出し、収益率が悪化しているケースが多いのがこの規模の企業です。
基本戦略が持つリスク
ポーター教授『競争の戦略』入門 では、
①戦略を実行して失敗するリスク
②戦略によって獲得した優位性が業界の変化で破壊されるリスク
を説いています。
コスト・リーダーシップ戦略のリスク
・コスト優先になりがちで、商品サービスや製品の改良に目が行かなくなる
・技術革新により小資本で低コストを実現できるようになる(例:3Dプリンターの台頭など)
・経営環境の変化で小資本で低コストを実現できるようになる(例:海外での低コストでの生産など)
・インフレや円安により低コストの維持が困難になる
差別化戦略のリスク
・大企業が低価格で参入し、差別化の維持が困難になる
・模倣品が出回り、買い手が差別化を認識できなくなる
・コスト・リーダーシップ戦略をとった業界他社との価格差が大きくなり過ぎて需要がなくなる
・買い手のニーズの変化
集中戦略のリスク
・市場規模の縮小
・市場規模の成長により大企業が参入
・更なる小規模事業者が更に細分化した市場を創り出す
・コスト・リーダーシップ戦略を取った業界他社との価格差が大きくなりすぎて需要がなくなる
編集後記
前回の“【VOL148】ポーターの競争戦略に学ぶ中小企業の差別化:ファイブフォースで書いたファイブフォース分析と同様にポーターの競争戦略の中でも最も重要なのがこの「3つの基本戦略」です。
中小零細企業、個人事業主、フリーランスが目指すべきはやはり集中戦略となるでしょう。
どのセグメント(=商品やサービスの種類、どの市場)でビジネスをするのか、それが最も大事な選択となります。
自分自身の強みと時代の流れを読むだけでなく、ファイブフォース分析を使って可能な限りライバルが参入しづらい状況を作ることも重要になります。
ポーターの競争戦略「ランチェスター経営」がわかる本―儲けのしくみ、教えます!、コトラーのマーケティング、ランチェスター戦略などは、中小企業経営者にぜひ一度は読んで貰いたい本です。
ちなみにランチェスターについての記事はこちらに少し書き溜めてあります。
→「ランチェスター戦略」に関する記事一覧
今回は、この本を参考にしています。
マーケティングは事業を行う上でとても大切な要素ですので、引き続きポーターやコトラー、ランチェスターについて機会があるときに解説していきます。