前回の内容でも少し触れましたが、資産の部には「資産」と「死産」が存在します。
「死産」を無くすことはもちろん、貸借対照表の資産の部は極力少なくしたほうが健全な経営ができます。
今回は死産の見極め方と資産の部を少なくすることのメリットについて書いていきます。
※死産(しさん)という造語を使っていますが、一般的に使われる死産(しざん)とはまったく関係ありません。
紛らわしい言葉で不快な思いをされる方がもしいらっしゃいましたら大変申し訳ございません。
前回の記事
→【VOL125】貸借対照表のどこを見たら良いのか?経営に役立つ5つのポイント
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今回は『貸借対照表の罠!「資産」と「死産」を見極め健全な経営を。』です。(編集前のメルマガは2016年9月28日(水)に配信されています)
この記事の目次
貸借対照表の中に潜む「死産」
資産とは売掛金や未収入金のように、現金預金に変わるものや、車両や備品に代表される固定資産のように使用することで将来収益をあげるものが会計上計上されます。
しかし、中には将来に渡って収益を得る可能性も現金預金に変わる可能性もない「死産」が混ざっています。
死産を取り除き強い財務体質をつくるためにも、各科目ごとの注意点をお伝えします。
※現実的には難しい部分もあります。BSの改善は長期的に行うものですので、専門家と相談しながら改善を進めることをお勧めします。
現金預金に潜む死産
現金預金に死産など基本的にはありませんが、唯一あるのは、借入金の担保になっている定期預金です。
使うことができず、いわゆる寝ているお金となりますので、死産といえます。
まず把握すべきことは定期預金を担保として借入金をいくらしているかです。
また、借入金を月額返済しているのであれば、借入金は減るのに対して、定期預金は一定額のままですから、減った分だけ借りることができるかどうかです。
基本的には、借入金の利息と定期預金の利息で考えると、借入金の利息のほうが高くなりますので、資金余力があれば相殺して返済してしまうことが理想です。
とはいえ、同額で相殺して返済は金融機関も承諾をしないケースが多いので、粘り強い交渉が必要となります。
売掛金に潜む死産
売掛金の中で回収期日を超えて未入金のものは死産です。
借入がある場合には、未回収の売掛金の分は利息を金融機関に払いながら入金を待っている状態と実質的にはいえます。
遅延損害金をとれるケースはそう多くはありませんので、売掛金の入金を待っている間は利息を無駄に払っているといえます。
また、借入金がなくとも期日通り回収して現金預金になっていれば、別のことに再投資できますし、納税のタイミングにおいてはお金を回収できていないにも関わらず、その分の法人税等や消費税等を支払わなければいけないこととなり、お金を生み出すどころか支払が生じてしまいます。
貸付金に潜む死産
基本的に事業を行う上で必要な貸付金というのはほとんど存在しないはずです。
従業員の持ち家購入制度などを福利厚生として導入している会社以外では、貸付金、前払金、仮払金などの名目で経営者や役員、スタッフに立替てはらっているお金に関しては、お金が寝ていることになるので死産といえます。
経費の仮払金のために支払っている仮払金や立替金はこの限りではありません。
貸付金、前払金、仮払金、立替金のあたりは金融機関も注意深くみてくる傾向がありますので、限りなく少なくしておくことをお勧めします。
棚卸資産に潜む死産
主に流行遅れや型落ちによって販売することのできなくなってしまった商品や、発注がなくなったために追加で製品製造をすることがなくなってしまった製品の材料などがあげられます。
また、劣化や破損により販売または製造ができなくなってしまった棚卸資産も同様です。
他の項目と同様にお金が寝ている状態といえますし、在庫の管理にもお金がかかっている状態です。
→【VOL120】経営上の在庫リスクと在庫のメリット・デメリット
いつか販売できるだろうと思って商品や材料を寝かせておくのか、廃棄するのか、購入価格より安くても売却損を覚悟で売るのかなど検討の余地があります。
棚卸資産を持っていることによる管理コストや、廃棄損、売却損を計上することにより税金や金融機関の評価を含めた財務バランスがどうなるのかなど全体的な判断が必要となります。
固定資産に潜む死産
主に遊休資産を中心とした事業に使っていない土地や機械、備品などです。
また、実務上多いのは、既に破棄しているにも関わらず帳簿上だけ残り続けている機械や備品などです。
固定資産の種類にもよりますが、償却資産税や固定資産税など持っているだけでかかる税金や費用もあるので注意が必要です。
特に償却資産税は申告制ですから、実際は廃棄しているのに申告書から廃棄し忘れているだけで税金がかかりますので要注意です。
死産という意味では、本当にその固定資産を持っていることで、お金を生み出しているのか、事業を円滑に行えているのかも検討する必要があります。
過度に高級な社用車や、応接室の机やイス、絵画なども戦略的に活用できていなければ「死産」といえます。
また昨今多いのは自社開発のソフトウェアなどを販売するケースです。
開発にかかったスタッフの人件費などを計上してソフトウェアを資産に計上していますが、実際の売上見込みはどの程度あるのかという問題です。
会計上は間違っていませんが、まったく売れない、資産計上額ほどの金額までは売れないのであれば、売れない金額は資産どころか死産でしかありません。
保証金や敷金
賃貸物件を借りる際に必要なお金と捉えることができますが、お金が寝ていることには変わりがありません。
お金は出ていっているのに経費にはできないので、税金も余分にかかることとなります。
「死産」とは言いませんが、可能な限り契約の段階で保証金や敷金は少なくなるように交渉しましょう。
代わりに多少家賃が高くなっても、結果的にはそのほうが良い場合もあります。
資産の部は可能な限り少なくする
上記にて「死産」の説明と例を出しました。
それ以外は「死産」とは言いませんが、基本的には貸借対照表の資産の部にある科目は現金預金を除いてすべてがお金が寝ている状態といえます。
例えば、売掛金、回収日を早くできれば売掛金は減り、その分現金預金が増えます。
増えた現金預金は再投資に回せる訳ですから、その分売掛金としてお金が寝ていると言えます。
もちろん得意先との関係性もありますし、回収期日を早くして欲しいなどとお願いしたら、資金繰りの危ない会社と見られてしまうので、新規の相手先から始めるなど工夫は必要ですが、常にお金が寝ているという意識は必要です。
他の勘定科目についても同様です。
資産の部に計上されている科目のすべてが、売掛金や未収入金のように現金預金になるものか、その他の立替金、貸付金、土地、建物のようにお金を払ったのに経費になっていないものです。
現金預金以外のすべての科目が寝ているお金を表すものと言っても過言ではありません。
総資産と自己資本比率の関係
寝ているお金を極限まで少なくするという効果以外に資産を可能な限り少なくするメリットは自己資本比率が高くなることにあります。
同じ100万円の自己資本の会社で、資産が1,000万円あれば自己資本比率10%ですが、財務改善ができ資産が500万円にできれば、自己資本比率は25%になります。
単純化し過ぎているので、実際にはそう簡単な話ではありませんが、自己資本比率の改善には利益を出す以外にも資産を圧縮する方法もあるということを頭の片隅においておくと良いです。
資産というとたくさん持っていたほうが良いという感覚になりがちですが、会計上は寝ているお金が少なければ少ないほど良いので資産の部は現金預金以外は少なくてよく、少ない方が良いので結果的に財務分析指標である自己資本比率も良くなるわけです。
軽装備の勧め
ランチェスター戦略の中の弱者の戦略にも軽装備の勧めがあります。
→中小企業のためのランチェスター戦略:弱者の戦略の5つの基本と3つの重点項目
ランチェスター戦略については上記を読んでいただければわかると思いますが、それをおいておいても中小企業は小回りがきくことが強みの1つです。
ある製品の製造のための機械を大量購入し、借入を起こしてしまっては、その製品が売れ行きが悪くなってしまっては、機械は「死産」になり借入だけが残ってしまいます。
結果、新しい売れ筋の商品に投資することができなくなってしまうことになります。
重装備(=資産が多い)だと変化に対応しづらくなりますので、今までの中小企業ももちろんですが、これからは特に注意が必要です。
業態的に重装備が必要な業界の経営者は、重装備に必要な投資を何年で回収するつもりなのか、業界のライフサイクルを念頭にキチンと設計する必要があります。
ちなみに飲食店や理美容室であれば初期費用は1年以内に回収することができなければ厳しいことが昨今では言われています。
編集後記
資産の中にまぎれている死産は定期的にチェックをしないと増えていってしまします。
死産があるということは、税金を無駄に払っていることになりますし、総資産を増やしていることになります。
とはいえ、廃棄や売却をすると債務超過になってしまうなど、経営上、金融機関からの評価の問題などもあります。
→債務超過とデメリットと金融機関の債務超過に対する評価
様々なバランスが関係してくるので貸借貸借表の改善は専門家に相談しながら進めることと、短期で急いでやるのではなく中長期で計画的にやることをお勧めします。
私でお役に立てることがあればいつでもご相談ください。
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1社でも多くの中小企業が資金繰りや財務の問題から解放され本業に集中できることを応援しています。