会計を難しくしている理由の1つに、現金預金などのお金の入金支払と、会計上の収入経費の違いがあります。
お金は入金したのに収入にならないものとお金を支払ったのに経費にならないものを把握することが大切ですが、その代表的なものが減価償却費と借入金です。
今回は借入金について解説していきます。
減価償却費についてはこちら
→【VOL2】減価償却費に代表される会計の罠にひっかからないように気をつけましょう!(メルマガ版財務講座)
→【VOL94】ひっかりやすい会計の罠!?減価償却期間と借入期間の関係性
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今回は『借入金の返済が経費にならない理由』です。(編集前のメルマガは2016年4月20日(水)に配信されています)
この記事の目次
借入金の返済が経費になるという勘違いをしやすい理由
1番の理由は、借入金の返済をするとお金がなくなるからです。
中小企業やスモールビジネスの経営者がまず考えるのは資金繰りです。
売上(収入)がいくらで、そこから経費(支出)がいくらあるから、今月はお金がいくら残るとか、足りないとか、投資にいくら回せるとか考えます。
ですので、月商の売上が100万円、人件費や家賃などの経費が90万円、借入金の返済が10万円あったら、その月の利益はゼロ円と考えるのは見当違いではありません。
ただ、損益計算書に載ってくる利益は10万円です。
これが資金繰りと会計が違う部分で、難しくしている部分です。
損益計算書上は、利益が出ているのにお金が手元に残っていないという経験をしたことがある方はたくさんいらっしゃると思いますが、その原因の1つがここにあります。
借入金の返済が経費にならない理由
借入金の返済が経費にならない理由は、お金の貸し借りであり、儲かった損したという話ではないというのが本当のところではありますが、わかりやすい説明には以下の2つがあります。
借入金を借りたときに売上(収益)にならない
もし仮に借入金を返済した時(=お金を払った時)に経費になるのであれば、借入金を借りた時(=お金をもらった時)には売上(又は収益)にならなければいけなくなってしまいます。
例えば3,000万円を10年で借りたとしたら、その年は売上(又は収益)が3,000万円、返済が3,000万円÷10年で、300万円となり、利益が2,700万円となってしまいます。
ということは、法人税等の税率を仮に40%とした場合、借入をして返済をしただけで、2,700万円×40%=1,080万円の納税をするということになってしまいます。
何か使うつもり、又は、運転資金のためにお金を借りたのに、1年目には、納税1,080万円と返済300万円で、3,000万円ー(1,080万円+300万円)=1,620万円しかお金が残らないことになってしまいます。
更に300万円×残り9年=2,700万円を返さなければいけないわけですから、何のために借りたのかわからなくなってしまいます。
3,000万円借りて、3,000万円お金が増えても、3,000万円を何年かにわけて返さなければいけないわけですから、売上(または収益)にも経費にも経常しないというのが、基本的な考え方となるわけです。
返済を経費にしてしまうと経費が2回計上されてしまうことがある
上記の例と同じく、3,000万円を借りたとして、すべて広告宣伝費として使ったとします。
広告宣伝費として3,000万円を経費になった上に、1年で返済した300万円も経費にすると、合計3,300万円が経費となってしまい、2回経費として計上されてしまうこととなります。
借りた時に売上や収益にもならず、返したり使ったりする度に経費になってしまうというおかしなことがおこります。
仮に自己資金で広告宣伝費を3,000万円使ったとしたら、経費になるのはその3,000万円だけです。
自己資金で広告宣伝をした場合と借入をして広告宣伝をした場合で、会社や事業の利益が変わってしまうという不都合が起こってしまうという結果になってしまいます。
参考:借入をすると事業の成長は加速します。
→【VOL93】借入をすると事業の成長は加速する??借入を上手に利用して効率的な経営を。
借入の返済があることで会計はわかりづらい
繰り返しになってしまいますが、重要なことなので何度もお伝えします。
借入がない場合と減価償却費がない場合には、会計はとてもわかりやすく、大げさにいえば、会計の知識がなくても会計を経営に活かすことができます。
しかし、借入をすることで、途端に会計がわかりづらくなってしまい、貸借対照表や損益計算書などの試算表が経営にとって全く役に立たないものなのではないかという錯覚に陥ってしまうことになります。
なぜなら、借入がない場合には、極端な話、お金の入出金だけを把握していれば、それがほぼイコールで損益になります。
例えば、年間の売上が3,000万円、経費が2,700万円かかる会社であれば利益は300万円です。
法人税等が仮に40%だとすると、300万円×40%=120万円が納税となりますが、300万円利益がでていれば、120万円の納税は通常できるはずです。(例外として、入金がものすごく遅い場合とかは別ですが…)
しかし、借入の返済が300万円あるだけで、全く違う結果となります。
もし仮に、返済も経費になれば、売上3,000万円ー経費2,700万円ー借入金の返済300万円=利益0ですから、税金もかからず、お金はうまく回ります。
しかし、経費にならないということは、利益は300万円、税金が120万円、結果として180万円しか納税後はお金が残らないのに、300万円の返済をしなければいけないこととなり、180万円ー300万円でお金は▲120万円となり、お金が足りなくなってしまうからです。
つまり、300万円の返済をするためにはいくらの利益があれば資金が回るのか、お金を残していくためにはいくらの利益が必要なのかをキチンと計算できるようにならないと、経営ができないこととなってしまいます。
借入の返済がある場合、会計資料をどう見たら良いのか?
わかりやすくするためにかなり単純化して考えますが、300万円返済する為には、法人税等の40%を加味して、100%ー40%=60%で、300万円÷60%で割ると稼がなければいけない利益がわかります。
300万円÷60%=500万円ですね。
なぜ、100%ー40%=60%で割ったかというと、500万円のうち40%の200万円が法人税等になりますので、60%の300万円が税金を払ったあとの利益として残るので、逆算しようとしたからです。
結果、借入金が経費になれば300万円の利益がでれば良いということになりますが、経費にならないこと、経費にならないということは、その分に税金がかかるということになります。
それがわかっていれば、返済をするために500万円稼がなければいけないということがわかります。
ここがわかっているかいないかで、目標利益、目標売上が変わってきますので、経営は大きく変わってきます。
利益がでているのにお金が残らないという原因の1つは返済にあります
経理や税理士が利益がでている、利益が出ているから税金がかかるのは当たり前みたいなことをいうけれど、利益がでているのにお金が全然残っていないのは何故?という疑問に打ち当たったことはないでしょうか?
ここまで読んでいただければわかると思いますが、借入金の返済があることが理由です。
上記の事例では500万も利益がでているのに、納税、返済をしたら、お金は1円も残らないわけです。
このことがわかっていれば「利益がでる=お金が残る」ではないことがわかると思いますが、お金を残すためには、残したいお金よりも多額の利益が必要ということになります。
編集後記
とは言っても、資金繰りを第一に考えなければいけませんので、資金繰りではこうなるけど、会計上はこうなると両方を考えながら経営をすることは難しいと思います。
しかし、ご説明したように資金繰りだけで経営を考えてしまうと税金の関係や借入金の返済の関係で、足りるはずのお金が足りなくなってしまうことがあります。
まずは、事業計画の段階では、必要利益を目安に会計で考え、いくらの利益、いくらの売上が自社の事業に必要なのかを理解して経営目標にすること、そして予算実績の差をしっかりと把握していくことで、大きな間違いをしてしまうことはなくなるはずです。
参考:
→【VOL19】長期事業計画を立てる時に重要である利益の考え方(メルマガ版財務講座)
→【VOL20】最低限稼がなければいけない利益を計算してみましょう!長期事業計画の立て方:数値編-利益(メルマガ版財務講座)