無借金経営は良いのか?悪いのか?議論されていますが、事業を成長させるという観点では、借入をする経営と借入をしない経営では借入をする経営のほうが効率的です。
その理由を考え方の面からと、数字の面からの両方でご説明したいと思います。
今回の内容は、メルマガ版財務講座「実践型!経営者向け財務講座 ~財務に強い経営者が見ている数字のポイント~」で配信している内容です。
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今回は『借入をすると事業の成長は加速する??借入で効率的な経営を。』です。(編集前のメルマガは2016年2月10日(水)に配信されています)
この記事の目次
「借入金は将来の利益の前倒し」です
ご存知の方も多いと思いますので、何を今更と思われるかと思いますが、改めてここで説明いたします。
例えば300万円の車を買おうとした場合、事業で利益を出して、300万円のお金を貯めなければ買えません。
しかし、借入をすれば今手元にお金がなくても300万円の車を買うことができます。
もちろん借入ですから、借入年数の間に利益を稼いで、300万円を返すのが前提となります。
つまり、借入金は将来の利益を前倒ししているということになります。
借入金で事業に投資して事業を効率化
例えば運送業で車両が1台増えると売上が倍になる事業があったとします。
300万円貯めてから車両を買うのと、300万円借りて車両を買うのでは、どちらが早く事業が成長するか一目瞭然です。
300万円貯めてから車両を買うのに比べて、300万円借りて車両を買ったほうが、事業は早く成長します。
しかし、車両で稼げる売上が少なくなるとか、車両が故障するかもしれない、競合がもっといい車両を買って市場を独占するかもしれないというリスクはありますので、ここが借入をするときの最大のポイントで、リスクとリターンをどう考えるかという問題はあります。
※運送業で300万円で車両が買えない、車両を1台増やしても売上は倍にはならない、など現実と相違する部分もあるかもしれませんが、あくまで事例をわかりやすくするために細かいことを割愛しておりますので、ご容赦ください。
事業を効率化する借入の例外
上記の事例で例外が2つあります。
まず1つ目は、車両を増やして売上は倍になるのだけど、人件費やガソリン代、車両メンテナンス費用などを考えたら赤字になるケースです。
赤字の事業にいくら投資しても赤字を加速させるだけで、事業は成長しません。
借入金は将来の利益の前倒しですから、利益の出ない事業に投資しても返済で事業の資金繰りが悪化するだけとなります。
2つ目は、稼げる利益より返済額が多い場合です。
例えば300万円を5年で借りた場合、月の返済額は300万円÷60ヶ月=5万円となります。
しかし、車両を一台増やして稼げる利益が5万円未満であれば、足りない分だけ、毎月お金が減っていくこととなります。
結果、利益は出ているのに返済額が大きすぎるために資金繰りが厳しくなり、将来的には資金ショートしてしまう可能性もあるということになります。
※簡単にするために税金は考慮しておりません
参考
→【VOL12】最低限必要な利益とは、黒字倒産しないための利益額のことです、一緒に計算してみましょう(メルマガ版財務講座)
以上の2つは借入をする際に必ず考えておかなければいけないことです。
赤字の事業には投資しない、返済しても十分手元にお金が残る返済年数で借入をする、この2つは最低限の条件となります。
借入をすることで、税金を払わずにお金を貯められる
ちょっと嘘くさい話のようですが、簡単に解説していきます。
車両1台300万円で10%の経常利益が年間出るとしましょう。
つまり税金以外の経費を引いて30万円残るとします。
法人税の実効税率を40%と仮定します。(実効税率とは、法人税と地方税を合わせた実際に税金に係るだいたいの税率のことをいいます。企業規模や出た利益によって変わりますが、ここでは一律40%とします。)
300万円を自力で貯めて車両を買う場合
30万円×40%=12万円の法人税を払い、手元に残るお金は30万円-12万円=18万円となります。
300万円の車両をもう一台買うためには、300万円÷18万円=約17年かかることとなります。
借入金を300万円して車両を買う場合
300万円を5年で借り、300万円の車両を購入します。
車両の減価償却を5年の定額法とします。
(実際は法人では定率法、個人では定額法が多いのですが、説明を簡単にするために、定額法とします。)
結果、300万円の車両が2台あり、10%経常利益がでますので、60万円の利益が出ます。
新しい車両の減価償却は300万円÷5年ですから60万円/年です。
(古い車両の減価償却はその前の事例でも考えていないので、今回も考えません。5年以上経過していて減価償却のない車両だと思ってください)
結果、利益60万円−減価償却60万円=利益はゼロとなります。
法人税は利益ゼロなので、かかりません。
借入金の返済は300万円÷5年=60万円ですので、減価償却前の利益で十分に返せます。
→【VOL2】減価償却費に代表される会計の罠にひっかからないように気をつけましょう!(メルマガ版財務講座)
この事例では、借入をしたほうが3倍以上成長が早くなる
結果として、借入をしなければ、新しい車両を購入するのに約17年かかる計算になりましたが、借入をすれば5年できちんと返し終わることがわかりました。
つまり、このケースの場合では、借入をしたほうが事業の成長は飛躍的に早くなり効率的になることがわかります。
但し、車両に乗るドライバーが育っているのか?、自社の事業が5年間同じような利益を稼ぐことができるのか?など、他の問題もありますので、事例のように単純ではないと思いますが。
今回の事例のポイント
上記の条件を果たすのにいくつかのポイントがあります。
1年で稼げる範囲内での返済額
5年で返済だったため稼げる金額60万円と返済額60万円と一致しましたが、これが2年で借りていたらどうなっていたでしょうか?
稼げる金額は60万円に対し、返済は150万円、つまり毎年90万円ずつお金が減っていきます。
これでは借入をしても事業が加速はしません。
稼げる金額に返済年数を延ばすということが1つ目のポイントです。
減価償却年数と借入年数が近い
車両の減価償却が6年なのに、借入期間が3年だとします。
300万円の借入であれば、年100万円の返済となりますが、単純に100万円稼げても資金はうまく回りません。
なぜなら、減価償却費が300万円÷6年=50万円しかないため、100万円-50万円=50万円、50万円×40%=20万円(税金)がかかるからです。
結果、お金としては、100万円の利益から20万円の税金をひかなければいけないので、手元に残る資金は80万円です。
これでは借入金を全額返すことが不可能です。
(※減価償却費はお金の出て行かない経費です。→【VOL2】減価償却費に代表される会計の罠にひっかからないように気をつけましょう!(メルマガ版財務講座))
車両は減価償却資産である
例えば、土地や保証金のように償却しない資産であれば、返済額と同じ金額を稼いだとしても、税金がかかるためにやはり返済がまわらなくなってしまいます。
なので、税金を支払った上でお金が残るようなシミュレーションが必要となります。
編集後記
借入金は事業を加速させ効率よくできる素晴らしいツールです。
しかし、上記のように返済期間と稼ぐ利益の関係、減価償却期間と返済期間の関係などがわからないと泥沼にはまり、借入金の罠にはまることになります。
多くの中小企業が借入金の罠にはまり抜け出せなくなっているのが、この辺りの難しさにあります。
しかも、罠にはまっている自覚がないのが、この問題の難しいところです。
資金繰りのためにお金を借りだしたら借入金の罠にはまっていると思ってください。
設備投資を含む投資のため、一時的なサイト負けのため、などの借入であれば問題ありませんが、いつになったら投資を回収できるのかの目処も立たず、金融機関が貸してくれるから借りている状態はすでに末期症状です。
そうならないためにも数字のシミュレーションや考え方を勉強していただきたいと思います。
そして事業計画を自分自身で作れるようになってほしいとおもいます。
事業計画作成ツール
参考までに