支払手形は企業の資金繰りを如実に表す勘定科目となります。
商取引としての代金決済の方法としての手形はもちろん、金融機関などへの担保としての手形、そして融通手形などの危険な資金繰りなど様々な実態が見えるのが手形取引です。
今回はそんな支払手形についてまとめてみました。
取引条件とのチェック
まずは取引条件との整合性がチェックされます。
以前解説しました金融機関の融資審査のポイント【取引条件と推定有り高編】の方法に基づいて、支払手形の残高に異常がないかのチェックをすることとなります。(裏書手形を忘れないようにしましょう)
割引手形や裏書手形などの手形取引の大雑把な概要を知りたい方はまずはこちらをお読み下さい。
→金融機関の融資審査のポイント【受取手形の内訳書編】
推定有り高の70%程度〜150%程度の範囲に入っていない場合には、その原因について説明できるように準備しておくことをお勧め致します。
場合によっては当座照合表(当座預金の通帳のようなもの)をチェックされます。(当座預金を持っている金融機関であれば、自分の金融機関で見ることができるのでほぼ必ずチェックされます)
金融機関が嫌がる支払手形の取引
金融機関が特に気をつけてチェックする手形取引がいくつかありますので、解説致します。
取引があるから必ず融資ができないというわけではありませんが、資金繰りが厳しい兆候と見られますので、注意が必要です。
支払手形の依頼返却
商品の仕入や外注費の支払のために発行した手形を決済できず、手形を返してもらい、新たな手形を発行することを言います。
これを依頼返却または手形のジャンプなどといいます。
例えば6月30日期日の支払手形があったとします。
しかし、6月30日に取引先が手形を金融機関に取り立てに回してしまうと、手形決済の代金がない場合、取り立てをしても取引先は回収できず、また手形を発行した側も不渡りを出したことになってしまいます。
なので、事前に取引先に相談をし、6月30日の手形を返してもらい、支払が出来る期日、例えば7月31日の支払手形を改めて発行するなどすることになります。
この時、支払手形の額面は、最初の手形と同じ金額の場合もありますし、利息を載せた金額にする場合もあります。また、一部支払える分は現金で決済し、決済した分以外の金額の支払手形になる場合もありますが、どのパターンも手形の依頼返却またはジャンプということになります。
手形は、6ヶ月以内に二度不渡りを出すと銀行取引停止になるため、企業は優先して支払をしようとします。
にも関わらず、その支払手形の決済(支払)で四苦八苦しているくらい資金繰りに困っている企業ということになるので、金融機関は嫌がる傾向にあるわけです。
通常であれば、手形の依頼返却(ジャンプ)ではなく、金融機関から借入をする、または経営者がお金を立て替えるなどして、支払手形を決済(支払)をすることが多いので、それすらできないくらい追い込まれていて、取引先に迷惑をかけながら何とか資金繰りをしている企業というレッテルを貼られることとなるわけです。
これは、手形帳のミミといわれる、発行した支払手形の額面と期日、取引先などがかかれたものと、総勘定元帳または当座照合表(当座預金の通帳)を比較し、手形のミミどおりに支払が行われているかを見ればすぐに依頼返却がされているかはわかってしまいます。
融通手形の発行
これはタブーと言っても過言ではないかもしれません。
通常、支払手形は商品やサービスの提供という商取引があって支払われるものです。
何もサービスの提供を受けていないのにも関わらず、手形を発行し支払はしないでしょう。
それをしてしまうのが融通手形なのです。
簡単に説明しますと、A社とB社があります。
通常はA社が商品を販売し、B社が支払手形にて代金を支払うということになるのですが…。
融通手形は、この商品の販売がなく、例えばA社がB社に500万円の手形を発行し、B社はA社に500万円の手形を発行します。
そうすると、お互いが自社の支払手形ではなく、相手先の受取手形を持つことになります。
そして、その手形を担保に金融機関から借入をしたりします。(つまり割引手形)
これの何が危険かというと、A社の立場に立って考えて見ましょう。
通常であれば、自分の降り出した手形500万円の支払をすれば良いだけのはずなのですが、B社が倒産してしまった場合には、割引手形等に回したB社の手形500万円も自社で決済しなければいけなくなるわけです。
難しい話は割愛しますが、融通手形を出し合った会社と一蓮托生、いや一心同体となるわけです。
通常であれば500万円借りるなりして、資金調達をするにも関わらず、融通手形で資金調達をしようというのは非常に資金繰りが困っている会社ということになります。
なぜなら、500万円借りた場合には、最悪500万円どうにかすれば良いのですが、融通手形の場合には相手が資金繰りできなければ、相手の手形の分まで自社でめんどうをみなくてはならず、倍の負債を抱えることになるからです。
そんな危険を犯している会社は、どちらも資金繰りが厳しいということが容易に想像できます。
資金繰りが厳しい会社同士、共倒れのリスクを負って資金繰りをギリギリで回している会社にお金を貸したい金融機関はなかなかありません。
編集後記
税理士法人時代も含めて、約8年中小企業の経営に携わる仕事をしていますが、手形の依頼返却は見たことがありますが、融通手形は見たことがありません。
そのくらいギリギリの資金繰り方法なのだと思います。
金融機関の融資審査のポイントシリーズで支払手形を書きましたが、依頼返却や融通手形をしているような企業はそもそも金融機関に既に相手にされなくなり、仕方なく支払手形を使って資金繰りをしている会社が多いので、実務をやっていたいても支払手形勘定が問題になって、融資のNGが出た経験は今のところありません。
また、半年に2度で銀行取引停止と言われていますが、実質1度でも不渡りを出したら、ほぼ倒産と見られ信頼をなくすことから、支払手形の取扱は慎重な企業が多いですし、近年の傾向としては決済手段として減らしていこうとしている企業が多くなっています。
金融機関の融資審査のポイントとしては、資金繰りという意味で手形の比率や支払サイトは見られますが、大きな問題になることはあまりありません。
融資審査のポイントというよりは企業経営の根幹の部分、借入で会社は潰れないが、支払手形で会社は潰れるという名言があるくらいポイントとなるのが支払手形ですので、また機会があるときに、この切り口で書きたいと思っております。