粉飾決算を一番疑われやすく、一番簡単に粉飾をしてしまうのが棚卸資産という勘定科目です。
粉飾決算は様々な観点から見てもするべきではありませんが、あらぬ疑いを受けぬためにも金融機関がどのような視点で棚卸資産を見ているのかを覚えておくことをお勧めします。
棚卸資産を増やせば利益が増え、減らせば利益が減る
損益計算書の計算は、売上から経費を引いたものが利益となります。
例えば、1個800円のものを1,000円で売ると利益は200円になりますね。
では、1個800円で10個買ってきて、8個を1,000円で売ったとすればどうなるでしょうか?
売上1,000円×8個=8,000円
仕入800円×10個=8,000円
利益は売上8,000円ー仕入8,000円=0円
というのは間違いです。
なぜなら、仕入れた残りの2個がまだ売れておらず残っているからです。
これが棚卸資産=在庫になります。
これは将来的に売れる可能性があることと、売れた8個の仕入価格はあくまでも800×8個=6,400円なので、省いて考えます。
損益計算書で表すとこんな感じになります。
売上1,000円×8個=8,000円
仕入800円×10個=8,000円
在庫800円×2個=1,600円
利益は、売上8,000円ー(仕入8,000円ー在庫1,600円)=1,600円
となります。
粉飾決算というのは、在庫が2個しかないのに5個あるかのような会計処理をして利益を出すことをいいます。
その場合、売上と仕入は変わりませんが、在庫が800円×5個=4,000円となるので、
利益は、売上8,000円ー(仕入8,000円ー在庫4,000円)=4,000円となります。
あれ?と思った方も多いと思いますが、10個しか仕入れていないのに、売れたものが8個、在庫が5個で、13個存在することとなっています。
在庫表と仕入伝票(又は請求書)を見たら簡単に個数がおかしいということがわかってしまうと思いませんか?
現実には取引量も多いためこんな単純な話ではありませんが、粉飾するということはこういう大きな矛盾を抱えることになるので、すぐにバレてしまうものだと思っていたほうが良いと思います。
棚卸資産(在庫)の推定有高から粉飾を見破る
金融機関は滅多なことで総勘定元帳や請求書などの現物をみることはありませんので、推定有高から粉飾を見破ろうとします。
推定有り高についてはこちらから。
→金融機関の融資審査のポイント【取引条件と推定有り高編】
売掛金などと違って取引条件が在庫にはありませんので、基本的には前年、前々年の決算書との乖離、業界平均在庫、ヒアリングなどを元に推定在庫を考えます。
年間の仕入原価÷12=月商原価を出し、棚卸資産÷月商原価で平均在庫月数を求めます。
年間1億2千万円が原価だとして、3,000万円が棚卸資産として残っているとしたら、1億2,000万円÷12=1,000万円、3,000万円÷1,000万円=3ヶ月が平均在庫月数となります。
これが昨年は1ヶ月なのに今年が3ヶ月などと大きく乖離していると粉飾または逆粉飾を疑われる可能性があります。
在庫リスクというのは有名な話で、極端に多くの在庫を抱えると資金繰りを圧迫しますし、極端に少なければ販売チャンスを減らします。
なので、棚卸資産は企業が戦略的にコントロールしているはずですので、普通は年によって大きく変わることがほとんどないからです。
但し、取扱商品が変わった、または値上がりする前の買い占め、企業戦略としての在庫管理の変化など適切に説明できる要因があれば問題ありません。
また、開発型の事業(ソフトウェア開発等)や元請の建設業など長期の案件を抱える事業は、その案件の金額によって在庫金額も変わってきてしまうので、その辺は通常考慮されます。
粗利益率の変化から粉飾を見破る
もう1つの方法としては、粗利益率の変化から粉飾を見るケースもあります。
例えば先ほどの例題でいくと
在庫2個の場合
売上8,000円ー(仕入8,000円ー在庫1,600円)=1,600円
粗利益率=1,600円÷8,000円=20%
在庫5個の場合(3個粉飾)
売上8,000円ー(仕入8,000円ー在庫4,000円)=4,000円
粗利益率=4,000円÷8,000円=50%
50%と20%、あまりにも前年や同業他社とかけ離れると粉飾を疑われる可能性が高くなります。
先ほどあげた開発型の事業(ソフトウェア開発等)や建設業などは案件によって粗利益率が違うケースが多々ありますが、例えば小売業(10%)や卸売業(20%)、飲食業(70%)、美容業(80%)など、同じ業種を続けていればほとんど粗利益率が変わらない業種のほうが多いわけです。(カッコ内は一般的な平均といわれる業種別の粗利益率)
どんな業種にしても前年や業界平均と粗利益率が大きく変わるようであれば、キチンと説明できることが重要です。
編集後記
実際に在庫が増えることにより、粉飾が疑われることが多々あります。
私も何度か経験がありますが、金融機関の担当者が勉強不足で、在庫が増えた=粉飾が怪しいなどと考える方もいました。
そういう金融機関の担当者は目の前の数字が数字にしか見えておらず、取引がどうなされて数字に反映されているのか、会計の仕組みや決算書の仕組みはどうなっているのか、そういうことをキチンと勉強していない方々です。
キチンと推定残高や粗利益率の検証、そして翌年のどこでその在庫が売れているのかをちゃんと原資資料(見積書や請求書、注文書など)で確認すれば、それが架空在庫か、実在在庫かはすぐにわかるはずです。
その点、税務署の税務調査はしっかりと原資資料を見ますから、あっという間にバレてしまいます。
3年に1度程度しか来ない上に担当者も毎回違う税務調査でわかることすら、長く付き合っているはずの金融機関がわかっていないケースもあり、もっと勉強して資料もしっかり見るべきだとつくづく思います(見てみぬふりをしているケースもありますが)
ですので、自社のことは経営者自身がキチンと説明できるようになっておく必要があります。
※粉飾決算の恐ろしさは、近いうちにまとめますが、絶対にしないことをお勧めします。