金融機関の借入の際の資料に、取引条件を書くことをご存知の方は多いかと思います。
〆日や回収方法及び支払方法(現金、売掛金、手形)そして回収期間などです。
この情報から金融機関は大切なことを読み取っています。
今回は、取引条件と推定有り高から金融機関が読み取っていることについて書きます。
この記事の目次
運転資金が必要な業種かどうか?
まずは企業の大雑把なお金の流れを把握するために、取引条件を確認します。
先に入金して、後に払う業種業態なのか、それとも先に支払ってから後に入金する業種業態なのかという点です。
例えば飲食業や理美容業のように、現金で売上が回収できるのに対し、仕入業者に対しては1ヶ月先〜2ヶ月先に払う業種業態もあれば、建設業のように入金は1ヶ月半から長いものだと手形で半年先になってしまいますが、支払はお給料が中心で長くても1ヶ月先に支払わなければいけない業種では、運転資金の需要が変わってくるからです。
また、同じ現金商売でも飲食店の仕入れ比率は平均30%程度なのに対し、理美容業では10%強のため、その比率の違いによっても資金繰りは変わってきます。
当然同業種でも仕入れ比率や入金支払サイトの長さは違いますので、その事業ごとにどういう資金の流れをしていて、どのくらい資金需要があるのかをチェックしているということです。
では、取引条件からどの程度資金需要(=いくら運転資金として貸せるか)があると金融機関が考えているか?それは推定有り高のお話をしてからご説明させて頂きます。
推定有り高とは何か?
推定有り高という言葉は聞いたことがあるでしょうか?
金融機関はこの推定有り高を必ずチェックしています。
推定有り高とは、取引条件から考えて、このくらいの金額の売掛金や買掛金があるだろうと想定される金額のことを言います。
推定有り高の計算の仕方
計算方法は至って簡単です。
例えば、売上の取引条件が末締めの翌々末日支払だとすると、入金サイトは2ヶ月ということになります。
金融機関は提出してもらった決算書の売上高を月数で割り、月商を算出します。
その「月商×2ヶ月=おおよその売掛金額」になるはずだと想定するわけです。これが推定有り高です。
つまり、毎月200万円の取引先であれば、年商は2、400万円になります。
そして入金が翌々月末(2ヶ月先)であるとすると、400万円の売掛金が毎月あることになります。
これを、「2,400万円÷12ヶ月×2ヶ月=400万円」と計算し、推定有り高を計算しているわけです。
買掛金に関しては、売上原価を使うのが一般的です。
また、受取手形と売掛金、支払手形と買掛金の割合に関しては取引条件の取引の割合を参考にするケースが多いので、適当に書くのではなくキチンとした割合を提出しておくことをお勧めします。
金融機関は推定有り高で不良債権の有無を確認
例えば上記の例で推定残高は400万円なのに、実際の売掛金残高が800万円、つまり2倍あったりすると何を金融機関は考えるかというと、不良債権があるのではないか?ということです。
回収できなくなってしまった売掛金があり、売掛金が増えているとしたら、それは資金繰りに大きな影響を与えるわけですから、金融機関はチェックするわけですね。
本当に回収不能であれば、それは売掛金という資産ではなく、貸倒損失という経費になるわけですから、損益計算書の利益からその分を差し引き、更に自己資本額からもその金額を差し引いて融資審査をすることとなります。
金融機関は推定有り高で粉飾を確認
架空の売掛金(売上の過大計上)や在庫(経費の過小計上)や過小な買掛金(経費の過小計上)などの粉飾がないかをチェックします。
異常に売掛金が多い、異常に買掛金が少ないなどの事実があると、金融機関から粉飾を疑われますので、なぜ売掛金が多いのか、なぜ買掛金が少ないのか、曖昧ではなく、適切かつ具体的な説明が必要となります。
例えば次にあげる季節変動などは、推定有り高と実際の残高が大きくずれる一つの要因となります。
金融機関は推定有り高で季節変動の有無を確認
推定有り高の考え方の欠点は、月商を平均で考える点です。
先ほどの例題で年商2,400万円だと平均月商は200万円、だから200万円×2ヶ月=400万円が推定有り高と考えました。
実際に毎月200万円ずつの売上がある取引であれば何の問題もありませんが、現実にはそうではない取引が世の中にはたくさんあります。
少し極端な例ですが、最初の1ヶ月目〜8ヶ月目までは月の取引額は100万円で9ヶ月目〜12ヶ月目までは月の取引額が400万円だとしても年商は2,400万円です。(100万円×8ヶ月+400万円×4ヶ月)
この場合も推定有り高は、2,400万円÷12ヶ月×2ヶ月=400万円ですが、実際の残高は最後の2ヶ月(11ヶ月目と12ヶ月目)の取引高である400万円×2ヶ月=800万円となります。
季節によって売上高が変わる業種業態では、閑散期と繁忙期で取引額が大きく変わるので、そこを金融機関はチェックします。
また、季節変動でなくとも特殊事情があるのかどうかなどのチェックもこの推定有り高からチェックしますので、キチンと説明できないと不良債権や粉飾などのあらぬ疑いを持たれる可能性があるということです。
金融機関の考える推定有り高と実際残高の正常な差異
概ねですが、実際の残高が推定有り高の75%〜150%程度であれば、大きな問題にはならないようです。
先ほどの例では、推定有り高が400万円でしたので、400万円×75%=300万円、400万円×150%=600万円ですので、300万円〜600万円までは許容範囲ということになります。
これは売掛金に限らず、受取手形、棚卸し在庫、支払手形、買掛金などに言える数字です。
推定有り高と実際残高の差異は前期との比較も大切
月商×何ヶ月というだけでなく、前期との比較も大切です。
特に棚卸し在庫などは、買ってから(又は完成してから)何ヶ月で販売されるかなどのヒアリングで推定何ヶ月の在庫があるかなどを考える傾向があるので、本当に買ってから何ヶ月で販売されているのかを金融機関が把握するのは難しいのが現状です。
(売上条件や仕入条件は契約書で確認できますが、在庫の販売期間はそうはいかないので。)
そうなると、前年は決算時に在庫が何ヶ月分残っていたのかと、今期は何ヶ月分残っているのかを比較することになります。
これもあまりにもかけ離れていると明確な理由を説明する必要があるわけです。
金融機関は必要運転資金をいくらと考えているのか?
推定有り高と、実際残高にほとんど差異がない、または差異があっても納得のいく合理的な説明ができることが前提となりますが、概ねこう考えています。
受取手形+売掛金+在庫ー(支払手形+買掛金(給与未払金含む))=必要運転資金
一度自社の決算書で計算してみて下さい。
但しこれは原則であり、季節変動がある企業や、売上が伸びている企業で運転資金が決算書で計算する以上に必要となる企業は、別途資金繰り表を作っていかに資金が必要かをアピールする必要があります。
編集後記
なぜ金融機関に取引条件を申告しているのか、なんとなくでもわかって頂けたでしょうか?
あくまでもこれは原則です。
ただ、金融機関の原則の見方を知ることで、どんな質問がくるのかを想定することができます。
この質問に明確に答えられるか否かというのは、融資審査においては非常に大切なポイントとなります。
この『金融機関融資のポイント』では金融機関の融資審査の原則を見ていきますので、ぜひ自社の決算書を見て、その金融機関がこうなるだろうと思っている事象から外れる部分について説明できるように準備しておくことをお勧めします。
次回からは内訳書のポイントについて解説していきます。