はじめに前回の内容でもお伝えしましたが、適正在庫は事業の置かれている各状況によって異なります。
今回お伝えするのはタイトル通り、適正在庫の考え方ですので、ぜひ応用して自社の適正在庫を導きだす助けになれば幸いです。
在庫を持つメリットやデメリットについては前回お伝えしましたが、販売機会損失と管理コスト及び陳腐化、劣化との兼ね合いが一番の問題点ではないでしょうか?
在庫がなく品切れによる販売機会を失いたくない一方で、新商品が出たり、賞味期限切れや劣化であったりといった商品(製品)そのものの価値が激減するようなリスクを極力避けるためにどうしたら良いかという葛藤の中に、適正在庫はどの程度なのかという疑問が生まれてきます。
今回は、適正在庫の考え方を、商品(在庫)回転率の観点から書いてみました。
読んでない方はまずこちらをお勧めします。
→【VOL120】経営上の在庫リスクと在庫のメリット・デメリット
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今回は『商品(在庫)回転率を使った適正在庫の考え方』です。(編集前のメルマガは2016年8月24日(水)に配信されています)
この記事の目次
商品(在庫)回転率とは?
商品(在庫)回転率は、売上原価÷平均在庫で求められます。
例えば、
月初の在庫が20個×@10,000=20万円
月の仕入が100個×@10,000円=100万円
月の売上が100個×@15,000円=150万円
という会社があったとします。
現実にはありえませんが、仮にこれが12ヶ月続いたとすると、
【損益計算書PL】
売上高 1,800万円(150万円×12ヶ月)
売上原価 1,200万円(期首棚卸商品20万円+当期仕入高100万円×12ヶ月−期末棚卸商品20万円)
粗利益 600万円
となります。
この時の商品(在庫)回転率は、
売上原価1,200万円÷平均在庫20万円=60回転
となります。
非現実的な数字となりましたが、年間に在庫が何回売れるかというのを表すこととなります。
売上高ではなく、売上原価を使う
稀にこの計算式に売上原価の変わりに売上高を使用する方がいますが、以下の理由から正しくありません。
上記の事例では売上原価が@10,000円に対して、売上高が@15,000円です。
売上高で商品(在庫)回転率を計算すると、
1,500万円÷20万円=75回転
となります。
一方で、仮に売上高が@20,000円で他の条件が同じだとすると、
2,000万円÷20万円=100回転
となってしまいます。
考えてみるとおかしいのがわかります。
1個あたりの売上単価は確かに変わりましたが、年間で売れた個数はどちらも1,200個と変わりません。
個数だけで考えると
期首 20個
仕入 1,200個
期末 20個
販売個数1,200個
となりますので、回転回数は60回なわけです(販売個数1,200÷平均在庫20個=60回)
そのため、在庫を仕入値で考える以上、売上高ではなく原価で考えなくては計算が合わなくなり、在庫管理の目安にもならなくないわけです。
必ず、売上原価を使用するようにしましょう。
商品(在庫)回転期間とは?
回転率の応用ですが、回転期間の計算は、
平均在庫÷売上原価
で求められます。
上記の事例では、平均在庫20万円÷売上原価1,200万円=0.01667年
となります。
つまり、365日×0.01667年=約6.1日
となりますので、約6.1日で20万円分の在庫が売れるということになります。
【月ベースの場合】
平均在庫20万円÷(売上原価1,200万円÷12ヶ月)=0.2ヶ月
【日ベースの場合】
平均在庫20万円÷(売上原価1,200万円÷365日)=約6.1日
業種別の平均商品(在庫)回転期間
参考までに業種別の平均値を挙げておきます。
ただし、同業種でも扱っている商品の種類や数、その他経営環境によって適正値は変わってくるので、あくまで参考値として捉えていただけたらと思います。
1位:その他製造業・・・89.23日
2位:金属鉱業・・・86.79日
3位:精密機械器具製造業・・・82.23日
4位:皮革、同製品製造業・・・82.23日
5位:一般機械器具製造業・・・71.12日
6位:鉄鋼業・・・65.42日
7位:窯業、土石製品製造業・・・62.26日
8位:電気機械器具製造業・・・61.47日
9位:繊維工業・・・59.17日
10位:化学工業・・・58.68日
・・・
・・・
(中略)
・・・
・・・
16位:農業・・・44.37日
・・・
・・・
19位:不動産業・・・42.59日
・・・
・・・
23位:卸売業・・・23.74日
24位:出版、印刷、同関連産業・・・20.53日
25位:電気業・・・19.28日
26位:小売業・・・18.40日
・・・
・・・
33位:建設業・・・8.06日
・・・
・・・
38位:旅館業・・・3.43日
・・・
40位:運輸に付帯するサービス業・・・2.29日
41位:倉庫業・・・1.14日
引用元:EDIUNET業種平均
※省略した順位についても載っています。
※計算式が、平均在庫÷売上高÷365日で計算されているため厳密な数字と差異があります。
自社と比較したい場合には、同様に売上高を使用することをお勧めしますが、粗利益率の差などで正しい比較にならないケースがあります。
商品(在庫)回転期間のみならず、業種別に様々な財務指標が日本政策金融公庫から発表されていたので、参考までに添付します。
こちらも残念ながら売上原価ではなく売上高を使用しています。
適正在庫の考え方
いくつかのデータが必要となりますが、商品回転率や回転期間を使用した適正在庫の考え方です。
商品・製品別に分類する
商品や製品によって販売までの期間や廃棄までの期間が違います。
なので、全部まとめて考えてはいけません。
例えば、食品と飲料では賞味期限が違うので、合わせて考えると食品と飲料の平均で回転期間が計算されてしまいます。
また、製造業であれば、商品が完成するまでにかかる期間も違うので、分類することはとても重要となります。
不良在庫を省く
ここでいう不良在庫とは、製品にならない、商品として売れないものも当然含みますが、いつか売れるかも知れないと思い倉庫の奥で寝ているような在庫も含みます。
なぜなら、上記の例題では、在庫20万円で、1,200万円の原価でしたので、在庫期間は6.1日でしたが、このうち5万円が不良在庫で販売できないものだとすると、15万円÷1,200万円×365日=約4.6日と更に短くなります。
業種によっては、この約1.5日に大きな意味がある業種もあるので、不良在庫や売れない無回転在庫は一度省いて計算しましょう。
品切れになった回数をカウントする
在庫をもたないことのリスクの1つは品切れによる販売の機械損失です。
現在の在庫、回転期間でどの程度品切れ状態が発生しているのかを調べることは重要です。
廃棄になった回数・金額をカウントする
賞味期限がある業態などが特にそうですが、在庫の持ち過ぎで廃棄になった回数と金額を数えてみましょう。
売れない無回転在庫や流行遅れになって処分セールをやるような商品も含みます。
製造までの期間、販売までの期間を明確にする
製造業であれば、製造期間はある程度見積もれるはずです。
なので、製造期間分の在庫はあって当たり前です。(歩留まり率の関係で在庫が少し多い場合も通常の範囲です)
販売までの期間については平均をとる以外にありませんが、おおよそは推定できます。
製造期間+販売期間+αの在庫は正常在庫といえます。
この状態で品切れ状態、つまり販売機会の損失がなければ理想の在庫数値といえます。
適正在庫数値を見つけるためには試行錯誤
上記のアプローチをして、出てきた商品(在庫)回転率が1つの目安となる数字となります。
そこにたどり着くまでには試行錯誤しかありません。
可能な業種であれば、在庫を減らしてみて、品切れ回数が何回増えたか、逆に増やしてみて廃棄がどの程度増えるのかなど、テストを繰り返してみないとわからない部分があります。
どの程度の損失まで許容できるかにもよりますが、可能な限り自社の適正数値に近づけていきましょう。
編集後記
いろいろと資料を探してみましたが、売上原価ではなく売上高を使用している資料が多くビックリしました。
ちょっと考えれば売上高で考えると正しい回転回数がでないのはわかりきったことですが、概ね粗利益率が同業種なら同じとして省略してやっている資料も多いようです。
しかし、現在は同業種だから同じ粗利益率とは限らない時代になってきています。
平均値と比べるのは参考としてもちろん大切ですが、自社の目標数値を決め、日々一歩一歩改善していくことのほうが大事になります。
今回の商品(在庫)回転率も使い方次第で理論だけでなく実務でも使えます。
同じように経営に使える数字はたくさんあり、現場を少し変えるだけで変化する数値も多くあります。
実際にお手伝いさせていただいている会社では、理論値の話だけする場合と、現場の改善を一緒に考える場合がありますが、改善まで一緒に考える仕事だと本当に経営数値を経営に活かすことが大事だと改めて実感します。
ぜひ、目標数値を作って取り組んでみてください。
もし、数値の作り方はもちろん、実際の改善方法でご相談があるかたは、Belinkまでご相談のご依頼をいただければと思います。
ちなみに在庫は粉飾にも使われやすい勘定科目で、粉飾を見破られるのにも使われることがあるのが、この商品(在庫)回転率です。
参考記事はこちら