財務やら会計やらが難しい理由の1つに用語の難しさがあります。
今回は財務分析資料や貸借対照表、損益計算書などをみるのに最低限必要な用語について書かせていただきます。
用語の意味と指標の意味、見るべきポイントを抑えて、財務に強い経営者になっていただきたいと思います。
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今回は『事業の成果を知るための財務分析に必要な代表的な財務指標と用語の意味』です。(編集前のメルマガは2016年2月24日(水)に配信されています)
この記事の目次
会計の基本用語
まずは基礎的な会計の勘定科目について説明します。
売上高
定款に定められている本業での収入を表します。
例えば、飲食店であれば、飲食店での収入です。
本業ではない、例えば飲食店での不動産収入などは、営業外収入となります。
一般的には市場規模に対しての、自分の事業のシェアを表す指標となります。
例えば外食産業であれば市場規模は約24兆円と言われています。(参考:平成26年外食産業市場規模推計について)
自社の売上が1兆円であれば、24分の1ですから、市場の約4.1%の市場シェアがあることを示します。
粗利益
粗利益とは、売上高から原価を引いた利益を言います。
厳密には、製造原価や建設業における建設原価なども引いた利益を言いますが、限界利益と同様の意味で使われることが多くなっています。
製品を製造するのには、材料費や外注費などの売上に比例して変動する経費(変動費)の他、工場の従業員のお給料(賃金)や工場の家賃などの経費(製造経費)がかかります。
原価というのは、1個の製品を作るのにかかったすべての経費を計算したものです。
粗利益というのは、その原価すべてを引いて残った利益のことで、1個の製品の販売価格と1個の製品をつくるのにかかったすべての経費との差額を言います。
限界利益
あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、売上高から変動費を引いた利益をいいます。
現在では粗利益=限界利益として使われることが多くなっています。
上記の製造業の例では、売上高から材料費や外注費などの売上に比例して変動する経費(変動費)のみをひいた利益を限界利益といいます。
売上総利益
売上総利益=粗利益です。
2006年に会社法の施行を受けて、売上総利益という言葉を正式な財務諸表には使うことが決まりました。
営業利益
売上高から製造原価はもちろん、販売費及び一般管理費をひいた利益のことをいいます。
言葉のとおり、本業の営業上でた利益を表します。
金融機関への支払利息や、有価証券の売買損益、不動産賃貸業以外の不動産収入など本業の営業に直接関係ないものは除きます。
経常利益
これもそのままですが、継続して常にでる利益のことを言います。
営業利益から、支払利息や不動産賃貸業以外の不動産収入など、毎月継続して損益に関係あるものを加味したものが経常利益です。
役員の退職金や、損害賠償金など、毎月継続して支出や収入があるわけでない特別なものは除外します。
税引き後利益
法人税等の利益に対して税金がかかるものを引く前の利益のことをいいます。
経常利益から、役員の退職金や損害賠償金、土地の売却益などの特別な損益を加味した利益のことをいいます。
変動費
変動費=原価と思いがちですが、厳密には違います。
会計を経営に活用するための管理会計で使われる言葉で、売上に比例して変動する経費のことをいいます。
例えば、商品の仕入や、材料費、外注費などをいいます。
一方、工場の社員のお給料や工場の家賃は製造原価ではありますが、変動費には入りません。
その理由は、商品の仕入や材料費は売上高がなければかかりませんが、工場の社員のお給料や工場の家賃は売上高がなくてもかかる経費ですので、変動費ではなく固定費と考えるからです。
原価
モノやサービスを販売するのにかかった経費すべてのことをいいます。
製造業であれば、材料費や外注費はもちろん、工場の社員のお給料や工場の家賃などが含まれます。
モノやサービスを1個(または1回)販売するのにどれだけ経費がかかっているのかを表します。
固定費
お給料や家賃などの毎月売上の変動とは関係なくかかる経費のことをいいます。
厳密には、売上高の変動と完全に比例はしないが、増減する経費、例えば残業代や広告宣伝費、水道光熱費、通信費、交通費などがありますが、一般的には準固定費として、固定費として考えます。
売上に完全に比例するもの(商品の仕入代金や発送費、材料費など)を変動費とし、それ以外を固定費とするのが通常です。
ランニングコストといえば、この固定費のことを表すのが一般的です。
販売費及び一般管理費
固定費と同義で使われるケースが多いですが、厳密には製造賃金(工場の従業員のお給料や社会保険料)や製造経費(工場の家賃や水道光熱費)などは原価に入るので、それを除いた経費を言います。
何が販売費で何が一般管理費かは重要ではありませんが、一応解説しておきます。
販売費
販売にかかる経費のことです。
営業マンのお給料、広告宣伝費や店舗の家賃などを販売費とよびます。
一般管理費
事務員のお給料や税理士、社会保険労務士への報酬など、事業をする上で必要な管理のための間接経費を表します。
財務会計と管理会計
いろいろな用語が出てきてわかりずらかったと思いますが、会計には会社法のルールに基づいて作成される財務会計と企業が経営に活かす為に利用する管理会計があります。(実際には税務申告の為に活用する税務会計というのもありますが、割愛します。)
厳密には違いますが、簡単に以下にご説明します。
財務会計
売上高
ー)原価
=)売上総利益(粗利益)
ー)販売費及び一般管理費
=)営業利益
ー)営業外収入(不動産収入など)
ー)営業外費用(支払利息など)
=)経常利益
ー)特別利益(土地の売却益など)
ー)特別損失(役員退職金など)
=)税引き前利益
ー)法人税等
=)税引き後利益
となります。
管理会計
管理会計は経営者が経営を行う上で自由に作れるものですので、ルールはありませんが、一般的には下記のようになります。
ちなみに店舗別損益や商品別損益などもこの管理会計の1つです。
参考:
→【VOL89】3種類の販売計画を使って事業を成長させましょう!
売上高
ー)変動費
=)限界利益
ー)固定費
=)営業利益
ー)営業外収入(不動産収入など)
ー)営業外費用(支払利息など)
=)経常利益
ー)特別利益(土地の売却益など)
ー)特別損失(役員退職金など)
=)税引き前利益
ー)法人税等
=)税引き後利益
となります。
変動費と原価、固定費と販売費及び一般管理費
ここまでお読みいただいた方は、お気づきかもしれませんが、違うのは製造原価のうち固定的にかかるものの考え方だけです。
工場の従業員のお給料や工場の家賃、水道光熱費などを原価と考えるか固定費として考えるかの違いです。
固定費は黙っていてもかかってしまう経費ですから、変動費と固定費に分解して考えたほうが、いくら売り上げたらいくらの利益がでるのかなどの指標は見やすくなります。
財務分析に使われる用語
ここからは財務分析に使われる代表的な用語について解説します。
損益分岐点比率
固定費÷限界利益
で計算します。
100%で営業利益がトントン、100%未満で黒字、100%超で赤字となります。
100%超であれば、今の何倍の売上を稼げば利益がでるのか?(120%であれば1.2倍で赤字脱出です)
100%以下であれば、今の何割の売上になったら赤字になるのか?(80%であれば8割に売上がなったら赤字です)
というのがわかります。
(固定費+営業外費用ー営業外収入)÷限界利益で計算すれば経常利益ベースでの損益分岐点がわかります。
損益分岐点売上高
固定費÷限界利益率
で計算できます。
限界利益率とは、限界利益÷売上高で計算されます。(売上高ー変動費=限界利益)
厳密な意味は違いますが、昨今では粗利益率というとこの限界利益率を表すケースが増えてきています。
仮に固定費が400万円、限界利益率が80%であれば、損益分岐点売上高は500万円となります。
赤字にならないために必要な売上高のことを損益分岐点売上高といいます。
(固定費+営業外費用ー営業外収入)÷限界利益率で計算すれば経常利益が赤字にならないための損益分岐点売上高がわかります。
粗利益率
売上高ー原価=粗利益額(売上総利益)
粗利益額÷売上高=粗利益率
モノやサービスを1個または1回販売したら、売上の何割が利益になるかがわかります。
ただ、昨今では下記の限界利益率と同様の意味で使われるケースが増えています。
限界利益率
売上高ー変動費=限界利益
限界利益÷売上高=限界利益率
粗利益率は生産個数が多ければ多いほど良くなりますが、限界利益率は純粋に1個販売したらいくら儲かるかを表します。
例えば、
1個100円で買った材料を、月給20万円の工場の社員が1人加工して、工場の家賃が月に40万かかるとすると…
1個しか作らなければ、原価は100円+20万円+40万円=600,100円となってしまいます。(原価の合計も600,100円です)
しかし、1万個作るとすれば、1個あたりの原価は、100円+20万円÷1万個(20円)+40万円÷1万個(40円)=160円となります。(原価合計は100円×1万個+20万円+40万円=160万円です)
生産個数によって粗利益率は変動してしまいますが、限界利益率は変動費である100円だけしか考えないので生産個数が変わっても原則変わりません。
労働分配率
人件費÷限界利益
限界利益に占める人件費(給料手当、社会保険料など)の比率を表します。
利益のうちどのくらいを人件費として分配しているかの指標です。
業種業態によっても変わりますが、一般的には50%程度が目安となります。
労働生産性
限界利益÷人件費
人件費の何倍の限界利益を稼いでいるかの指標となります。
これも業種業態にもよりますが、2倍が目安となります。
参考:
→【VOL90】社員・スタッフ1人あたりいくら稼いだら良いのか?
総資本経常利益率
総資本とは総資産のことを良い、貸借対照表の資産の部の合計のことです。
ROAと呼ばれるもので、いくらの資産を運用していくらの利益を出せているのかを見る指標です。
投資の場合利回り10%を目指そうと言われていますが、事業でも10%の総資本経常利益を稼げているのが理想です。
例えば、
現金預金300万円
機械装置400万円
器具備品300万円
が貸借対照表の資産の部にあるということは、現金預金や機械装置を使って利益を出すことが事業の目的です。
合計1,000万円を投資家や金融機関から集めて事業を行うわけですから、その資金の運用効率を見るのがこの総資本経常利益率ということになります。
年間100万円の経常利益を出せれば、10%の総資本経常利益率となります。
売上高経常利益率
経常利益÷売上高
売上高に占める経常利益の率を表します。
業種業態によって大きく違うので、何%であれば理想という指標はありません。
総資産回転率
売上高÷総資産
資産を1年間で何回転させているかを表します。
例えば先ほどの1,000万円の資産を持っている会社で年間売上高が2,000万円であれば、2回転となります。
これも業種業態によって違いますので、何回転が良いとは言いにくいですが、回転数が多い方が資金を上手に使えているといえます。
これは投資の世界で、同じ1,000万円をもっていて、ある銘柄を買ってずっともっていれば1回転ですが、銘柄を何回も売買していれば総取引金額は増えるので、資金が回転していることとなるのと同じです。
売上高経常利益率と総資産回転率の関係
売上高経常利益率と総資産回転率は業種業態によって違うので、何%とか何回転が理想というのはないと説明しました。
しかし、実は、売上高経常利益率×総資産回転率=総資本経常利益率となります。
総資本経常利益率は10%が理想ですから、それを目指すために売上高経常利益率と総資産回転率は改善していく必要があります。
例えば、総資産1,000万円、売上高2,000万、経常利益50万円の会社があるとします。
売上高経常利益率=50万円÷2,000万円=2.5%
総資産回転率=2,000万円÷1,000万円=2回転
売上高経常利益率2.5%×総資産回転率2回転=総資本経常利益率=5%となります。(経常利益50万円÷総資産1,000万円=5%)
なので、10%を目指す為にはどちらかを改善しなければいけないこととなります。
編集後記
少しややこしい話になったかもしれませんが、原価と変動費の違いをまずは抑えていただきたいと思います。
その上で、事業の効率を見る為に大事な、総資本経常利益率を理解し、総資産回転率と売上高経常利益率に分解し、自社では何ができるかを考えていただきたいと思っています。
次回は原価と変動費、つまり売上総利益と限界利益で考えることの違いについて解説します。
今回の限界利益率でお話ししたような内容の続きとなります。
どちらが経営に活かせるし指標かは一目瞭然になるのではないかと思います。
事業計画作成ツール
参考までに