VOL67からお伝えしていた「かっぱ寿司」、「スシロー」、「くら寿司」の財務分析が好評だったため、引き続き上場企業の財務分析をメルマガでお伝えしてきた財務分析の仕方の実践編として続けていきます。
今回からは低価格ラーメンで一世を風靡した「幸楽苑」と「日高屋」についてです。
同じような路線をとっている二社ですが、現在は明暗が分かれているかのように言われているようですが、財務面ではどうなのかを見ていきましょう。
今回は幸楽苑です。
参考:
→【VOL67】上場企業の財務分析:かっぱ寿司の業績
今回の内容は、メルマガ版財務講座「実践型!経営者向け財務講座 ~財務に強い経営者が見ている数字のポイント~」で過去に配信した内容を再編集して掲載しています。
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今回は『上場企業の財務分析:幸楽苑の業績』です。(編集前のメルマガは2015年9月2日(水)に配信されています)
幸楽苑のIR情報
今回は前回の回転寿司業界に対して、格安ラーメン店対決ということで、幸楽苑と日高屋に着目していきます。
最初は幸楽苑のIR情報を見てみましょう。
いつものように「企業名 IR」で調べると簡単に出てきます。
今回は株式会社幸楽苑の平成27年3月期の有価証券報告書に基づいて財務分析をしてみましょう。
幸楽苑の重要指標
平成27年3月期(連結決算)
売上高・・・・・約377億
粗利益額・・・・約276億
営業利益・・・・約8億
経常利益・・・・約9億
当期純利益・・・約3億
減価償却費・・・約15億
総資産・・・・・約250億
純資産・・・・・約96億
有利子負債・・・約85億(リース負債を含む)
幸楽苑の総資本経常利益率は?
経常利益(約9億)÷総資産(約250億)=約3.6%
理想は10%ですので、理想よりかなり低い数字になっているといえます。
回転寿司業者では、スシローが26.9%、くら寿司が15/2%だったと考えると、たくさんのお金を使っているにも関わらず稼げない効率の悪い経営をしていることがいえます。
その一つの理由として、建物及び構築物が減価償却後で約68億、リース資産が37億、土地が約40億、合計約145億と全体の半分以上を占めていて、設備投資が利益に対して大きいことがわかります。
これだけ設備投資するのであればもっと利益を稼がなければいけません。
逆にこの利益であれば、設備投資をもっと抑える必要があるといえます。
幸楽苑の償還年数は?
回転寿司業界でお話しした際は経常利益を使いましたが、今回は税引き後利益を使うこととしましょう。
なお、有利子負債は、短期借入金、長期借入金、1年以内返済長期借入金、リース債務をいれています。
有利子負債(約85億)÷(税引き後利益(約3億)+減価償却費(15億))=約4.7年
10年を超えたら危険と言われていますが、その約半分ですので、今のまま利益を出し続ければ約5年で負債を返済できますので安心です。
幸楽苑の自己資本比率
純資産(約96億)÷総資産(約250億)=38.2%
50%を超えたら理想と言われていますが、30%超でも中小企業であれば十分安心です。
上場企業と考えると・・・
悪くもないが、安心できるほど安全圏でもないという状況といえます。
理由としては土地、建物、リース資産などに約145億の投資しているため、資金調達が多くなっているため全体資産が大きくなり、相対的に自己資本比率が小さくなっております。
幸楽苑の損益分岐点比率
100%ー(経常利益(約9億)÷粗利益額(約276億))=96.7%
簡単に言えばあと約3.3%の売上が落ちたら赤字になってしまうという危険水域だということです。
理想は80%です。限りなく100%に近いので非常に注意が必要です。(100%で損益トントンという意味です)
ちなみに粗利益率は粗利益額(約276億)÷売上高(約377億)=73.2%
くら寿司が約54.2%、かっぱ寿司が56.1%、スシローが約50.7%、元気寿司が約59.1%などと比較してみると回転寿司業界よりラーメン業界のほうが粗利益率が高いのではないかと推定することができます。(実際には日高屋を見てみることでわかります。)
しかし、粗利益率は高いのに、トータルの利益は幸楽苑より回転寿司業界各社のほうが良い理由は・・・
固定費が多くかかっている部分があるということになります。
このあたりはまた次回以降に解説させていただきますが、各数字を分析していくと業界や業態によってどういうコスト構造、利益構造になっているかというのがわかってくると思うのでお勧めです。
編集後記
次回の日高屋の分析を楽しみにしつつ、回転寿司各社の数字と分析してみて下さい。
幸楽苑は総資本経常利益率をはじめ、数字が良いとはいえない状況です。
こんな記事を見つけました。
2社は似た業態の外食チェーンながら歴史の違いもあり、幸楽苑のほうが規模は大きい。ただし、ここへ来て明暗はくっきりと分かれている。10年前に2倍以上あった売上高の差は年々詰まり、収益力の差は歴然。老舗の幸楽苑を追い落とす勢いで業績を伸ばすハイデイ日高と、停滞に苦しむ幸楽苑という構図だ
と書かれていますが、幸楽苑は今回の分析でも、総資本経常利益率及び損益分岐点比率は良くなく、非効率な経営、そして、約3%の売上減少で赤字に転落してしまうという状況でした。
また、自己資本比率も悪くはありませんが、良いともいえず長期間の業績不振に耐えられるような財務的安定力はないといっても過言ではないといえます。
それに対して、日高屋の財務状態はどうなのでしょうか?
上記の記事では日高屋優位のように書かれていますが、実際のところはどうなのでしょうか?
上記の記事のようなことが、決算書の財務分析からわかるのか、日高屋の分析を楽しみにしていただけたら幸いです。