会社の規模や業績をみるときに年商の規模や、売上の何%が利益なのかをみることがあります。
大雑把に規模や業績をみるときには、年商や売上高経常利益率をみることは正しいですが、自社が適正な経営をしているかの指標として使うことはできません。
自分の事業規模(=売上)に対して経常利益がいくら残っていれば適正な事業なのか胸を貼って答えることはできるでしょうか?
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今回は『借入金の返済が経費にならない理由』です。(編集前のメルマガは2016年4月29日(金)に配信されています)
この記事の目次
業種業態によって粗利益率が違う
売上高経常利益率で考えることがいかに合理的ではない理由に、業種業態によって粗利益率が違うということがあげられます。
もちろん同じ業種業態でも経営の仕方によって粗利益率は違いますが、粗利益率は大雑把に
卸売業・・・10%
小売業・・・20%
製造業・・・50%
飲食業・・・70%
理美容業・・80%〜90%
と言われています。
売上高経常利益率は10%を目指せという間違い
たまにネットなどで調べると、東証一部上場の企業の売上高経常利益率は5%が平均で、10%だと優良企業ということが書かれています。
専門家ではないのでわかりませんが、投資の対象、株を買う対象として考える上では合っているのかもしれません。
しかし、経営という意味で考えれば・・・
卸売業はそもそも粗利益率の平均が10%なわけですから、売上から仕入を引いたら10%しか残らないわけです。
そこから、人件費や家賃、その他の固定費を払ったら、当然10%なんて残るわけがありません。
では、売上高経常利益率10%を切る卸売業はすべて業績不振事業なのでしょうか?
当然、そんなことはありません。
京セラの創業者、稲盛和夫氏の言葉
実は京セラの創業者である稲森和夫氏が売上高経常利益率についてこんなことを言っています。
「どんな業種でも経常利益率10%以上を上げなければいけない。そうでなければ経営をやっているとは言えません。」
真意のほどはわかりませんが、どんな業種でも◯◯業だからという先入観を捨て売上高経常利益率10%を目指せという意味かもしれません。
しかし現実的に考えて下記の2つの事業のどちらが経営的に優れているかは考えてみればわかるかと思います。
どちらの会社が優良企業か?
ちょっと極端な例ではありますが、下記の事例を見てみてください。
経常利益率10%の会社
A社:粗利益率50%の製造業
売上高 1億円
原価 5,000万円
粗利益額 5,000万円
固定費 4,000万円
経常利益 1,000万円
粗利益率3%の会社
B社:粗利益率は3%ですが、仕組みが出来上がっていて固定費が1人分の人件費や家賃などで100万円しかかからない会社
売上高 7億円
原価 6.79億円
粗利益額 2,100万円
固定費 100万円
経常利益 2,000万円
利益は2倍出ていますが、売上高経常利益率は約2.9%しかありません。
損益分岐点比率で考えよう
A社よりB社のほうが優良な会社だというのは何となく感覚でわかるのではないでしょうか?
しかし、売上高経常利益率で考えてしまうと、10%対2.9%ですから、A社のほうが優秀に見えます。
ここに売上高経常利益率で経営を考えることの間違いがあります。
大事なのは損益分岐点です。
損益分岐点は固定費÷粗利益額で求めることができます。
A社:4,000万円÷5,000万円=80%
B社:100万円÷2,100万円=4.8%
つまり、A社は100%-80%=20%、20%売上が落ちれば業績は赤字に転落します。
一方、B社は100%-4.8%=95。2%、95.2%売上が落ちなければ黒字が維持できるということです。
参考までに70%売上が落ちたとして計算してみましょう。
A社
売上高 7,000万円(1億円×70%)
原価 3,500万円(5,000万円×0%)
粗利益額 3,500万円
固定費 4,000万円
経常利益 ▲500万円
B社
売上高 4.9億円(7億×70%)
原価 4.753億円(6.79億円×70%)
粗利益額 1,470万円
固定費 100万円
経常利益 1,370万円
となります。
損益分岐点比率は何%が適正か?
損益分岐点比率は低ければ低いほど安定した企業といえます。
中小企業の場合には、まず90%が1つの目安となります。
そして理想は80%です。
ただし、1つだけ気をつけてください。
節税対策をしない状態で、損益分岐点が90%を切ってない企業はまず損益分岐点90%を切ることを目指して欲しいのですが、90%を切っている企業はキチンと将来の売上を作るために必要な投資をした上で損益分岐点が90%を切っているかです。
今、損益分岐点が低くても、将来への投資をせずに5年後に売上が激減してしまっては意味がありません。
損益分岐点が90%を切ったなら、商品開発、販路開拓、宣伝、ブランディングなどにもしっかりと経費をかけた上で損益分岐点を下げていきましょう。
経営者の仕事は粗利益額を増やすことと、粗利益額を適正に人件費や広告宣伝費、研究開発費などに分配することです。
結局、売上高経常利益率は何%が適正?
売上高経常利益率にあまり意味がないことはわかっていただけたと思いますが、あえて売上高経常利益率の適正%を出すとしたら、以下のように考えましょう。
粗利益率×20%または粗利益率×10%
そうすれば、損益分岐点比率が20%になる売上高経常利益率が求めることができます。
例えば
卸売業・・・10%×20%=2%
飲食業・・・70%×20%=14%
となります。
10%をかけるか20%をかけるかは、損益分岐点比率90%を目指すのか、20%を目指すかによって使い分けてください。
編集後記
同業種同業態であったとしても、外注主体で仕事をしているのか、社内に人員を抱えているのかなどによって粗利益率は変わってきます。
ですので、売上高経常利益率で考えることはあまり意味がありません。
ましてや、売上高経常利益率をくらべて企業の善し悪しをくらべるのは間違い以外の何ものでもありません。
損益分岐点という考え方を理解して経営の指標にしていってもらえたらと思います。
次回は将来への投資はどのくらいまでして良いのかについて解説します。